研究課題
本研究は、研究対象としているPRLの大部分が、細胞内でCysリン酸化の状態で存在することを発見したことに立脚し、システイン残基(Cys)のリン酸化という新しい翻訳後修飾の性質やその生理的意義について追究するものである。リン酸化されるPRLのCys104残基について、以前私は活性酸素種によって酸化され、Cys49と分子内ジスルフィド形成することをみつけている(Ishii et al., 2013)。そこで、本年は同じCys104が関わる翻訳後修飾であるCysリン酸化と分子内ジスルフィド形成の2つの関係について詳しく解析した。まず純粋なin vitroの系で実験を行う目的で、PRLの組み換えタンパク質を大腸菌で発現させ、精製タンパク質を調製した。次にチロシンホスファターゼの基質として汎用されるOMFPを用いてPRLのCysリン酸化を促したのち、過酸化水素を添加した。するとOMFPを添加していない、非リン酸化型のPRLでは分子内ジスルフィド結合が速やかに形成された一方で、Cysリン酸化PRLでは分子内ジスルフィド結合が形成されなかった。また興味深いことに、PRLの大部分がCysリン酸化状態にあるHEK293細胞の培養液に過酸化水素を添加した場合は、in vitroの場合と異なりCysリン酸化状態が減弱し、分子内ジスルフィド結合が形成された。これらの実験結果より、(1)Cysリン酸化と分子内ジスルフィド形成は排他的であり、また(2)細胞内ではCysリン酸化と脱リン酸化のサイクルが盛んにおこなわれている可能性が示唆された。今後は特に(2)のリン酸化、脱リン酸化を積極的に促す分子群の同定に力を入れた解析に取り組む予定である。
2: おおむね順調に進展している
PRLのCysリン酸化の性質について、同じCysを利用する酸化修飾との関係を明らかにすることができた。またその過程で細胞内でCysリン酸化・脱リン酸化のサイクルが積極的に促されている興味深い可能性も示され、今後の解析に向けた様々な知見を得ることができた。
計画に沿って、Cysリン酸化・脱リン酸化に関わるメカニズムや分子群を調べるとともに、Cysリン酸化される分子群の網羅的解析にも取り組む予定である。
Cysのリン酸化と酸化の興味深い関係がわかり、想定以上の大きな進捗があったため、比較的大きな経費を要するCysリン酸化タンパク質の網羅的同定については次年度以降に行うこととした。そのため、次年度使用額が生じている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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