研究課題
本研究は自らがこれまでに見つけてきた、PRLのシステイン残基のユニークな翻訳後修飾を中心とした、PRLの分子機能とその生物学的重要性を追究するものである。令和元年度はPRLの細胞レベルでの機能、特にシステイン残基が関わっている現象を明らかにすることをメインの目的とした実験を行った。上皮のモデル細胞として汎用されるMDCK細胞を由来とするDOX誘導性PRL発現細胞を樹立し、その解析を行った。その結果、PRLのこれまで知られなかった未知の機能を複数発見した。DOXを添加してPRLを高発現させると、細胞の環境pHに対する応答性が変化し、通常の細胞外環境であるpH 7.5前後から、悪性腫瘍内で見られるpH 6.5などの弱酸性の環境で最も活発に増殖するように性質が変化した。また、PRLの高発現により単位面積あたりの最大細胞数が低下する、つまりPRLが上皮シートの細胞密度を規定する分子の一つであることも発見している。重要なことに、このpH応答性変化、細胞密度調節のいずれもがPRLのシステイン残基をセリンに置換した変異体では全く観察されず、これまで分子レベルで詳細に解析してきたPRLのシステイン残基が必須の役割を果たしていると確認された。また少なくともpH応答性変化については阻害標的分子として見つけているマグネシウム排出トランスポーターCNNMの欠損細胞でも傾向が見られている。PRLとCNNMとの結合にもPRLのシステイン残基が重要であり、一貫して解釈できる結果が得られている。
2: おおむね順調に進展している
本研究のテーマとしているPRLのシステイン残基が重要である細胞レベルの現象としてpH応答性変化や細胞密度調節など、複数見つけることができており、おおむね当初の計画どおりに進んでいると位置づけられる。いずれもかなり重要な発見であり、今後さらに発展させてゆくことでユニークかつインパクトのある成果が得られると期待される。
令和元年度に見つけたpH応答性変化、および細胞密度調節について詳細な解析を続ける。一昨年度までに見つけてきたシステイン残基の翻訳後修飾との関わりについても調べるほか、動物個体レベルでの解析も行い、それぞれの現象が生物学的にどのような意義をもつのか、明らかにする。
当初計画どおりにPRLのシステイン残基のユニークな翻訳後修飾の解析が進んでいる一方で、関与する細胞レベルでの現象の探索から予想以上に興味深い結果が得られてきている。これらの結果をより詳細かつ包括的に調べ、ユニークかつインパクトのある研究成果としてまとめるため、一年計画を延長した。この目的達成のため、令和2年度は個体レベルを含めた解析を行う予定であり、多くの金額を充当することとした。
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