本研究は自らがこれまでに見つけてきた、PRLのシステイン残基のユニークな翻訳後修飾を中心とした、PRLの分子機能とその生物学的重要性を追究するものである。令和2年度は令和元年度に引き続き、PRLのシステイン残基が関わっている細胞生物学的な現象について、そのメカニズムの詳細を解析した。まず細胞の環境pHに対する応答性については、PRL高発現によりリソソームが細胞膜と融合し高濃度プロトンなど、リソソームの内腔に蓄えられた物を細胞外へと放出する「lysosomal exocytosis」と呼ばれる現象により生じていることを突き止めた。実際、lysosomal exocytosisの実行因子であるリソソーム局在型陽イオンチャネルTRPMLのノックアウトにより、PRL依存的なlysosomal exocytosisだけでなく、環境pH応答性変化、がん転移もまた抑制された。また、PRLによる上皮シートの細胞密度調節機構についてもより詳しい解析を行った。その結果、PRL高発現時にE-カドヘリンの翻訳が亢進し、その結果としてTGF経路が活性化することで、高密度時にのみ選択的にアポトーシスが生じることが重要であることを発見した。さらに、これらの現象が培養細胞レベルだけでなく、ゼブラフィッシュの初期胚においても同様に生じることを確認しており、個体レベルでもまた重要であることを明らかにしている。これらの結果より、PRLのシステイン残基を介して生じる様々な生物学的現象の仕組みを明らかにすることができた。
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