本研究は、異なる大きさの神経管をもつ2つの種(ニワトリ、ウズラ)において、「細胞増殖制御」と「分化にいたる時間」の違いを明らかにし、その違いをもたらす遺伝子やその上流制御系を同定しようというものである。 この目的で、神経管の様々な領域をニワトリ、ウズラ胚の神経前駆細胞組織片から作成し、そこに発現する遺伝子を網羅的に探索し、発現プロファイルを解析した。その結果、ほとんどの遺伝子の発現量やプロファイルは同等であったが、一部の転写因子の発現量が両種間で異なることが明らかになった。私たちはこのうち特にウズラ胚で発現量が高かった遺伝子に着目し、この遺伝子をニワトリ胚に強制発現したところ、ニワトリ胚の神経管のサイズが減少すること、またウズラ胚における機能喪失実験により、前駆細胞の増加が認められる結果となった。さらに、この遺伝子の上流制御系を調べるためにエンハンサー解析を行ったところ、エンハンサー部分の転写因子の結合領域のシーケンスに変化が見られることがわかった。これらの結果から、両種における遺伝子の発現量の違いは、エンハンサー領域の違いに起因することが明らかになった。 またパターン形成を促進するモルフォゲン(分泌因子)に関しては、その発現量や器官内における濃度勾配に関して大きな違いが見られなかった。したがって、遺伝子の発現量の違いは、分泌因子の発現量の違いというよりはむしろ、進化上起きるゲノム上の小さな変化によって起こることが示唆された。
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