アフリカツメガエル受精卵の最初の12回の卵割は同調的かつ周期的におこるが、受精卵を極めて低い温度に置くと分裂しなくなる。温度を下げたときに「分裂が起こらなくなる=リズムがなくなる」現象の理解には、非線形動力学の分野で知られている分岐理論が有効である。温度を下げていくと受精卵の卵割周期が伸長したことから、周期が無限大になってリズムが停止する Saddle-node on an invariant circle(SNIC)分岐のシナリオで細胞周期のリズムが消失する可能性が示唆された。SNIC分岐である場合、リズムがなくなる低温でも適切な刺激を与えると一度だけサイクルが回る興奮性を示す。そこで細胞周期が停止する6℃に置いた受精卵を刺激する実験を行った。高温パルス後に6℃で卵割する現象は観察できたものの、受精卵からリズムの振幅を求めることが難しくSNIC分岐以外の可能性を排除できなかった。低温で細胞周期が停止する現象を反応ネットワークに踏み込んで理解することを目指し、アフリカツメガエル卵を遠心分離して得られるサイクリング抽出液を用いた解析も行った。先行研究を参考に細胞周期のリズムをモニターできるレポーター系を導入しようと試みたが難しく、実験条件の改善や変更が必要である。分岐理論を利用して振動子の性質をあぶり出すアプローチはシアノバクテリア概日リズムの低温停止現象の研究で実績がある。低温環境でも利用可能なレポーター系が出来次第、細胞周期制の振動子としてのマクロな性質に迫りたいと考えている。
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