研究課題
再生医療を目指した細胞からの三次元組織構築法の研究が著しい発展を遂げているが、血圧に耐える強度を求められる血管組織ではその開発は極めて遅れている。研究代表者は先行研究で、生理的範囲を超える極めて高い圧力を負荷すると、ラット平滑筋細胞では細胞同士が接着して弾性線維などの細胞外基質を多く産生し、強固な血管様組織ができることを見出した。本研究では、ヒト血管平滑筋細胞を用いて通常生体内で経験しないレベルの高圧力を感受する機序を解明し、大気圧環境下では十分に引き出せなかった細胞の能力を最大限に利用することで、最終的には移植可能な弾性・剛性を有する三次元組織を短期間で構築する方法を開発することを目的とする。研究代表者は、ラット平滑筋細胞を用いた実験で、生理的範囲を超える高圧力環境の培養は、弾性線維をはじめとする細胞外基質を豊富に産生させ、細胞播種と高圧力印加を交互に繰り返すと強固な血管様組織が構築されることを見出した(Yokoyama U. et al., Scientific Reports, 2017)。これを受けて本年度は以下について実験を行い結果を得た。①大阪大学、企業との連携により、加圧装置の改良を行い、新規作製した加圧装置を用いることで、酸素分圧やpHといった環境を詳細にリアルタイムでモニターすることに成功した。②ヒト平滑筋細胞を用いて細胞外基質が効率よく産生できる加圧条件を見出した。③加圧によりヒト平滑筋細胞で多層の強度あるシートを作製できた。
2: おおむね順調に進展している
初年度は高圧力の感知分子機序を解明する目的で、加圧装置の改良を行い、細胞が感受する環境を正確に把握することができ、その条件を用いてある一定の条件が細胞外基質を効率よく産生することを明らかにできた。初年度として予定していた実験を行うことができ、さらに、その条件を用いて、平成30年度に行う予定であった、細胞シートの作製に着手できた。数例の検討では、強度のある細胞シートを得ることができ、次年度に向けた準備を順調に行うことができた。
本年度の検討結果を元に、次年度は細胞シートの作製のための条件検討を中心に研究を行う予定である。細胞膜表面へ可溶性フィブロネクチンの集合と不可溶性フィブロネクチン原線維の形成は弾性線維形成の足場となると同時に、インテグリンを介した細胞同士の接着を促進し細胞の三次元配置が可能となる。そこで、フィブロネクチン原線維形成を最も効果的に誘導できる圧力印加条件を用いてヒト平滑筋細胞の播種と高圧印加を交互に行い、平滑筋細胞同士の接着と弾性線維形成を促進させ、多層細胞シートを構築する。特に重要であるのが、細胞播種密度と加圧に要する時間の検証となる。フィブロネクチン原線維形成と引き続く弾性線維形成は、フィブロネクチン、フィブリリン1、エラスチン蛋白の免疫染色、エラスチカ染色、生化学的検査で確認する。
旅費に関しては招待講演であったため、計上していた研究費を使用しなかった。また、圧力印加装置のための交換部品が、装置の故障や劣化がなく必要とならなかった。蛍光標識をするための試薬一式が研究室内で合成できたためにコストを削減できた。これらの資金を用いて、平成30年度にはより多くの細胞シートを作製し、移植実験に向けた検討を行う予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 図書 (6件) 備考 (1件)
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