研究課題/領域番号 |
17K19404
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
人見 次郎 岩手医科大学, 医学部, 教授 (00218728)
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研究分担者 |
木村 英二 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (50405750)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 血管形成 / メカノバイオロジー / リモデリング / ゼブラフィッシュ / FRET / ライトシート顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、圧負荷をFRETプローブにより可視化することで、 血流による圧変動が、血管網の形成とその形態形成に、どのように寄与しているかを明らかにする。発生初期の血管網形成と動静脈分化は、未分化な血管網の中から血流によって動・静脈が選択されるというネットワークモデルが提唱され、長らく信じられてきたが、近年 小型魚類のゼブラフィッシュ(Danio rerio)を用いた解析結果から、初期の血管網の形成過程は、遺伝的な要素によって決定されていることが報告され、血流の関与は否定された。しかしながら、血流が血管網の形成とその形態形成にまったく寄与しないわけではなく、特にいったん形成された血管系のリモデリングの過程では、血流が一定の割合を果たすことが示唆されている。これまで血管を構成している内皮細胞にどのような勾配で圧負荷がかかっているかを可視化することは不可能であり、その関係性を明確に示すことは困難であった。そこで本研究では、ゼブラフィッシュを実験モデルとして、近年 開発が進んでいるFRET を利用した圧センサープローブを血管特異的に発現させ、血管網の形成とその形態形成への影響を、ライブイメージングによって評価する。特に、いったん形成された血管網が途絶・解離する現象への血流の関与を詳細に解析する。我々のこれまでの観察から得た仮説、すなわち、「血管が二又に分岐している際、血流が優位に流れている血管が保持され、血流の乏しい血管は途絶・解離していく」ことを、圧負荷を可視化することで検証することが本研究の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、血圧負荷を可視化するために、圧プローブ(ActTS-GR)を血管内皮で特異的に発現する遺伝子組み換えゼブラフィッシュの作成を行った。ActTS-GR は、細胞膜にかかる圧負荷を可視化するFRET を利用した新しい蛍光プローブで、培養細胞や、アフリカツメガエルを用いた初期発生過程での張力の可視化に成功している。ActTS-GRは、actin を架橋するactinin 分子のspectrin repeat 内にmCherry とEGFP のFRET 構造を挿入している。これが二量体を形成してactin filament 間に架橋することで、actin にかかる張力に応じてFRET 効率が変化する。そこでDNAコンストラクトとして、血管系で特異的に発現を誘導するflk1遺伝子のプロモーターを用いてActTS-GRを直接発現させるもの(flk1:ActTS-GR)と、Gal4-UASの系を用いたもの(UAS:ActTS-GR)の2種類を作成し、1細胞期の受精卵へインジェクションを行った。 その結果、直接ActTS-GRを発現誘導する系では、founderが得られなかったが、Gal4-UAS系を用いる系では、founderを得ることに成功した。そして既に作成してあったflk1:GFF(Gal4の改変体)の系統と新たに作成したUAS:ActTS-GRの系統を交配することで、血管特異的にActTS-GRを発現する系統を樹立した。平成29年度には、作成した系統の胚を、ライトシート顕微鏡でライブイメージングするところまで達成した。現在 血圧変動を効率よく可視化できる条件を検討しており、これにより、血管壁にかかる圧変動がリアルタイムで可視化できる系の構築を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、作成した系統を用いて、FRETイメージングの条件最適化を行い、リアルタイムでの血管壁にかかる圧変動を可視化する実験系を構築する。条件の最適化が完了次第、全身の血管をイメージングし、部位特異的な圧変動について解析を行う。その後 心臓の収縮関連蛋白であるtroponin T2a(tnnt2a)の発現をMorpholino antisense oligo(MO)を受精卵にインジェクションして発現を抑制した(心拍を生じない)胚や、心筋細胞内カルシウム動態を抑制する薬剤(BDM)を使用して一定時間心拍を経たのちに心拍を停止した胚などを併せて解析して、血管内皮での圧負荷の可視化する。tnnt2a を抑制して、心拍を発生開始以降まったく生じていない胚では、血管内皮の空間的な配置は維持されるが管腔形成が著しく阻害される(血圧負荷がかからない)。一方、BDM により、発生途中で心拍を阻害した場合、管腔は正常に形成され、血管内に含まれる血液のボリュームは心拍を停止しても一定期間は維持されることがわかっている(血圧負荷はかかるが、shear stress はかからない)。これらの異なった状態の胚をイメージングすることでActTS-GR の血管系に対する有効性を検証し、その後 実際の血管形成過程への圧負荷の影響を解析する。血管発生過程における血圧の寄与の解析では、観察対象部位としては、脳脊髄血管系の統合部位であるPHBC(primordial hindbrain channel)と第1節間動脈の連結部位、また節間動静脈のリモデリングを対象とする。これらの領域では、リモデリングの過程で、一度形成された血管網が途絶し、解離(disconnect)するという現象が起こる。この血管リモデリングでの圧負荷の果たす役割をActTS-GR のイメージングにより明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費で予定していた金額から、勤務時間の調整等で残額が生じた。残額は次年度の予算と併せて人件費として使用する。
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