研究課題/領域番号 |
17K19408
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
菊水 健史 麻布大学, 獣医学部, 教授 (90302596)
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研究分担者 |
茂木 一孝 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50347308)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | マウス / 集団 / 長期モニタリング / RFID |
研究実績の概要 |
動物における社会(群れ)とは、2個体間の関係にとどまらず、複数の個体が複雑な関係性を構築し、一定の範囲内で共存するものをいう。この過程で個々が群れの中での役割を獲得し、群れが一つの集合体として機能するようになる。例えば真社会性を形成する唯一の哺乳類であるハダカデバネズミでは女王ネズミだけが出産し、多くの働きネズミは養育係となるが、申請者らは働きネズミが女王からの社会シグナルを受容して、働きネズミとして養育を担当する神経メカニズムを明らかにしてきた(Nature News, 2015)。すなわち社会集団において、個体は各々の個体間のやり取りを基にした個体間関係性を群れ全体に発展させ、集団における役割を獲得するプロセスを有することが示された。ヒト社会でも動物の社会においても、群れは2個体にとどまらず複数個体によって維持されている。本課題では、申請者が開発した他個体長期位置情報測定システムを利用し、半野生化におけるマウスの社会構造に関わる神経機構を明らかにする。具体的には、これまで申請者が確立してきた社会性に障害や変化をもたらすモデルマウスを用い、社会構造がどのように形成維持されるか、さらには一度確立されたマウス社会構造に対し、人為的に神経細胞を操作することで、その社会構造のスクラップビルドの過程を明らかにし、これまで前人未到であった社会構造を司る神経機構の解明に挑む。このような複数個体が共存する環境下において適切な行動を発現するための中枢機能の研究は、複雑な社会性を司るメカニズムの解明にとどまらず、社会構造を成り立たせることの進化的意義の分子レベルでの理解や、社会性に障害を有する疾患の原因究明や治療法確立につながる、価値の高い研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)複数マウス個体の半野生化環境下における長期的な時空間モニタリング手法の確立を目指した。これまで複数個体にRFIDを装着、短時間RED Module上にて自由行動させ、その位置情報の取得を行っていたが、個体の混線が生じた。RFIDを短距離型から両距離型へ変更し、さらに上面から画像位置情報処理機能を組み合わせることで、長期にわたる個体の位置情報を正確にとらえることに成功した。 2)幼少期経験の操作による社会構造の変化の解析:幼少期の母子間の関係性は成長後の社会行動に大きく影響を与える。申請者らが確立してきた早期に母子分離するモデルを用い、競争的な栄養環境と豊富な餌資源下における社会行動の比較を行った。複数個体の存在下において、競争的な栄養環境により、雄マウス間の攻撃性は劇的に上昇、雌や仔マウスすらも攻撃の対象となった。一方、豊富な栄養環境では、そのような社会性の変化は認められなかった。 3)オキシトシン神経系の人為的操作による社会構造のスクラップビルド:オキシトシン神経系は、個体間の親和的関係性の構築を支える最も重要な分子であることを見出してきた。今回、オキシトシン神経系を欠損したマウスと野生型のマウスにおける複数個体の長期的モニタに成功した。その結果、野生型マウスでは、新奇物に対する警戒心をもち、個体間の距離を狭めて生活する様子が認められたが、オキシトシン神経系欠損マウスでは、新奇物に対する警戒心が障害を受け、また他個体との親和的な滞在時間が減少することが昭かとなった。
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今後の研究の推進方策 |
1)システムの改良:今後、半野生下での飼育期間が数ヶ月に及ぶことから、その期間、問題なく記録を続けるよう改良が必要である。具体的には長距離型のRFIDのアンテナを混成しない程度に配置し、さらに上部からの画像を基にした軌跡解析を組みわせることでその精度を向上させる。 2)早期離乳モデルを用いて、集団内の親和度さらには敵対的行動を数値化し、さらにその集団内連鎖行動を位置情報を基に明らかにする。 3)さらに申請者らはオキシトシン神経系の人為的操作にも成功している。具体的にはオキシトシン受容体にCreを発現する遺伝子改変マウスと、DREADDsを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を組み合わせ、時期場所特異的なオキシトシン神経系の操作が可能となった。この手法を用い、一度形成されたマウスの社会において、飲水中にDREADDsのリガンドであるCNOを入れ、オキシトシン神経系を人為的に操作し、構築された社会構造がどのように変異、再構築されるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度、RFDIによる実験エリア全体の位置情報の取得と混線の回避を目指し、様々な条件で実験したが、誤差5%以下に押さえることができなかった。そのため、実験装置の増設をせず、予算支出が予定より低下した。現在の新たなシステムにより、改善が見込めたので、今年度は実験装置の増設を行い、予定通りの全額の施行を予定している。
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