研究実績の概要 |
本研究では、指間皮膜を有するHm変異マウスを用いて、多くの生物種でみられる収斂形質である指間皮膜形成が発生するメカニズムの解明を試みた。 Hmでは、第14染色体上の150 kbのゲノム断片が第5染色体のShh遺伝子の上流に挿入されることで、Shhの新規発現ドメインの獲得と指間皮膜の形成が起こることを明らかにした。コウモリの翼芽でも、Shh遺伝子の指間部における新規発現ドメインが観察され、指間特異的なShhのシス因子を有していると考えられる。 150 kbの挿入断片の機能を詳細に解析して、この断片中に遺伝子発現を活性化させる3つのエンハンサーを見出した。さらに、この3つのエンハンサーは、単独では十分に機能せず、3つが協調的に働くことで指間の皮膜構造が残ることを明らかにした。この結果は、シス因子の変化が収斂形質の獲得に寄与し、形質の変化をもたらすためには複数のシス因子が連動して変化する必要性があることを示している。 Hmの発現解析により、Shhの過剰発現は、Chrdの発現を介して指間部の細胞死プログラムを変更していることが明らかになった。水鳥後肢の指間部では、Grem1というBMPアンタゴニストが過剰に発現し、BMPシグナルの活性低下を引き起こすことで細胞死を抑制する(Merino et al., Development, 1999)。ShhとChrdによる細胞死の抑制は、自然界の水かきの発生における普遍的な発生プログラムかもしれない。 本研究では、Chrdの過剰発現によるマウス肢芽への指間皮膜の付与には成功したが、Bmp2とFgf8の過剰発現によって指骨を伸長させることはできなかった。過剰発現肢では、軟骨の異形成は認められたため、マウス四肢の骨格パターンをコウモリ様に変化させるには、これらのシグナル分子の発現量や発現場所を適切にコントロールする必要があると考えられる。
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