研究課題/領域番号 |
17K19414
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森 俊介 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (90733147)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / Organoid / 肢芽 |
研究実績の概要 |
四肢原基となる肢芽は、3軸(遠近、前後、背腹軸)に沿ったパターンを形成することで正確に配列した四肢骨格形態を発生する。よって、古くからパターニングの実験モデル系として研究され、パターン形成を誘導するシグナル因子の同定、機能解析が行われてきた。しかし、肢芽のパターニングがどのように細胞の位置情報と発生運命を決定づけ正確な四肢骨格を形成するのか、詳細なメカニズムは明らかになっていない。 そこで申請者は、マウス胚性幹細胞(ES細胞)から肢芽組織を分化誘導し、肢芽発生過程を試験管内で解析可能な研究ツール作製を目的に研究を進め、これまでの研究で三次元培養法 (SFEBq法)で作製したマウスES細胞凝集体から立体組織構造を維持した肢芽組織を分化誘導する手法を見出している。 本課題では、マウスES細胞由来肢芽組織を用いてin vitroで四肢骨格パターンを再現することを目指し研究を進め、本年度までに以下の研究成果を得た。1) Local application systemによる外因性因子の局所添加実験を行いうことで肢芽の背腹軸を再現し、肢芽の初期発生段階に形成されるシグナルセンター外胚葉性頂堤 (AER)様組織の誘導方法を見出した。しかし、AER形成後の肢芽組織は組織構造が不安定になるため、今後の研究で組織培養法の改良が必要と考えている。2) 無血清培地の培養下において、ES細胞由来肢芽組織が自律的に初期軟骨分化を示すことを明らかにした。さらに、腎臓被膜下へ移植したES細胞由来肢芽組織が初期の骨発生段階まで分化することを見出した。3)マウス胚肢芽へES細胞由来肢芽組織の間葉系細胞を移植する実験を行い、移植片が肢骨格の発生運命に従い分化することを見出した。以上の結果はES細胞由来肢芽組織が肢芽としての発生能を持っていることを示しており、これまでの研究成果をまとめた論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究により、充分な栄養と酸素を供給できる環境が整えば、ES細胞由来肢芽組織から骨組織を分化できることを明らかにした。一方で、現状の培養方法では、肢芽組織の増殖と組織構造の安定性を保ったまま培養することが困難な状態にある。四肢骨格パターンをin vitroで再現するためには、肢芽組織に適応する組織培養法の改良が求められる。しかし、本年度は所属研究室の引越しがあり、移設作業などにより数ヶ月間の培養停止期間があったこと、また、現在までのES細胞由来肢芽組織に関する研究成果をまとめた論文の作成作業も平行して進めていたことから、培養条件の検討や分化誘導系の改良に充分な時間を得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ES細胞由来肢芽組織の組織構造を安定に保ちつつ長期培養可能な培養条件を探索し、in vitroで四肢骨格パターンを再現するために以下の研究計画を進める。1)酸素運搬体(ペルフルオロデカリンなど)を用いた培地内酸素供給量の促進や培地栄養条件の検討による新規組織培養の探索。2)胎児発生期における肢芽の周辺組織(体幹など)をマウスES細胞より分化させ、ES細胞由来肢芽組織と共培養することで肢芽組織構造の安定性と組織サイズの拡大を目指した実験系を構築。3)指のパターニングに必須なもう一つのシグナルセンター極性化活性帯 (ZPA)の誘導を行う。Local application systemによる局所的な外因性因子の添加でES細胞由来肢芽組織に背腹軸と前後軸の位置情報を与えるこでシグナルセンターを誘導し、in vitroで自律的なパターニングを誘導する。4)ES細胞由来肢芽組織の軟骨分化と骨格パターニングをライブイメージングで観察するために、軟骨分化マーカー遺伝子(Sox9, Runx2, Col2a1など)の蛍光レポーターノックインES細胞株の作製を進める。
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