四肢原基となる肢芽は、パターニングの有用な実験モデル組織として研究されてきた。しかし、肢芽のパターニングから形成される四肢骨格発生の詳細なメカニズムは明らかになっていない。この発生機構の解明には、形態変化と分子動態を継時的に観察する必要がある。そこで申請者は、試験管内において肢芽発生過程を解析可能な研究ツール作製を目的に研究を進め、三次元培養法 (SFEBq法)で作製したマウス胚性幹細胞(ES細胞)凝集体から立体組織構造を維持した肢芽組織“肢芽オルガノイド”を分化誘導する手法を見出した。 本研究課題では、この肢芽オルガノイドを用い、試験管内で四肢骨格発生を再現する実験系の構築を目指し研究を進めた。 まず、肢芽オルガノイドが潜在的に骨発生能を持っているか解析するため、マウス腎臓皮膜下移植法とexo utero移植法を用いた肢芽オルガノイドの移植実験を行った。この結果、肢芽オルガノイドが軟骨から硬骨までの分化能を持ち、さらに胚発生期のマウス肢芽と同様に軟骨と腱への多分化能を保持することを明らかにした。 次に、肢芽発生に必須なシグナルオーガナイザーAERを誘導する実験を行った。肢芽発生期、BMPシグナルの拮抗により形成される背腹軸の極性に伴いAERが誘導される。肢芽オルガノイドはBMPの活性が高く、肢芽の腹側に偏った遺伝子発現を示していた。そこで、当該研究室で開発したLocal application systemを用いBMP阻害剤の局所添加実験を行った。この結果、背側マーカー遺伝子の発現増加とAERの特徴であるFgf8遺伝子を発現した肥厚上皮構造を再現した肢芽オルガノイドの作製方法を見出した。 以上の研究成果は、マウスES細胞由来の肢芽オルガノイドが肢芽の発生過程を試験管内で再現できる潜在的能力を保持していることを示しており、これらの研究結果を論文にまとめ、現在投稿中である。
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