本研究では、ラベル糖質(BrDG)の細胞内可視化に至り、細胞内糖質が初めて可視化された可能性が示唆されている。一方、細胞固定処置後のBrDGの90%喪失が課題となったが、昨年度より、瞬間凍結乾燥法で対策している。しかし、瞬間凍結乾燥法の成功率は10%と低い。電顕で頻用されている基板は、金属製(銅、モリブデン等)に対して、微量元素を測定する蛍光X線解析では、SiNや高分子膜を使用する。金属と比べると熱伝導率は悪く、成功率の低さは、概して温度制御の難しさから派生していた。具体的には、1) 瞬間凍結時の液体プロパンの過低温による凍結、2)試料や基板のひび割れや破壊、3)凍結乾燥装置への移行時や、4)真空前の温度上昇による試料の結晶化が考えられた。そこで本年度は、これらの問題点の解決を、第一の目的とした。1)は、冷蔵庫内で行うことで、外気温に影響せずに液体プロパン温度を安定に維持、2)は、試料基板の膜厚を200nmから270nmに、面積を1mm四方から0.5mm四方に変更し、基板強度や熱伝導率を改善、3)細胞基板とホルダーを可撤性の一体設計に変更し、ホルダー毎、速やかに凍結乾燥装置へ移動、4)凍結乾燥装置の出力を増大し、真空時間を短縮、液体窒素槽の設計より、凍結状態を維持できるよう改良した。以上より、予備的に、瞬間凍結乾燥法の成功率は改善に至った。 予定していた細胞本実験は、COVID-19感染の影響より実現に至っていない。再開すれば、速やかに本実験での瞬間凍結乾燥法の評価を、蛍光X線顕微鏡 (SXFM)により行い、細胞内糖質の可視化を確立する。さらに、同条件での質量分析によるBrDG代謝産物の検証を行う。また、脂肪酸と糖質の2重ラベルによる可視化や、各種代謝抑制試薬によるラベル糖質の細胞内局在変動の観察に展開し、ラベル糖質の代謝プローブとしての可能性について、論文や学会発表を行う。
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