研究課題
器官や組織の形態が形成されていく上では、極性(方向性)をもった細胞の変形や運動の制御が重要である。このような細胞の極性化を伴う組織形態の形成には数多くの分泌性シグナル蛋白質が関与することが明らかにされてきたが、それらが組織・個体レベルでのダイナミックな形態形成をどのように生み出すのかという問題に対する理解は十分ではない。研究代表者らは細胞シートの平面内部において一方向に沿って発達させる細胞極性である平面内細胞極性に着目し、それを制御する分泌性シグナル蛋白質であるWnt11が細胞膜上に極性をもって分布していることを見出したことから、細胞内でのローカルな極性形成と周囲の細胞との相互作用を基盤にして組織全体の極性が形成されるのではないかという着想に至った。本研究では、Wnt11と平面内細胞極性を制御するコア因子との局在を比較し、コア因子の極性化はWntにより引き起こされること、またコア因子にはWntとともに局在化するものとWntが存在する細胞面以外に局在化するものがあることを見出した。さらに膜結合型Wnt11蛋白質を異所発現させたところ、数細胞の範囲でコア因子の極性化が引き起こされたのに対し、その状態で低濃度のWntを拡散させると、極性化される範囲が格段に広がることが示された。さらに、Wntのシグナル伝達をdominant negative Dishevelledの異所発現により局所的に阻害すると、阻害した細胞以降には極性化は広がらなかった。このことから、平面内細胞極性はWnt発現細胞の周囲で最初にできた細胞極性がリレー式に周囲へと伝播されること、かつそのリレーにはWntが必要なことが明らかになった。以上の結果ををもとに、Wnt11とPCPコア因子が相互に極性化を誘導し、その誘導がリレー式に広がることにより組織全体に極性形成が起きるのではないかというモデルを構築した。
1: 当初の計画以上に進展している
研究開始時には想定できなかった、平面内細胞極性の形成過程におけるWnt11の機能を明らかにすることができた。特に、Wntが他のコア因子との相互作用の結果、極性を持って共局在し、それがリレー式に伝播されていくという新たなモデルを提案することができたことは、予想外の大きな進展であると考えられる。
実験データの再現性などについての検討を行い、モデルの修正・検証を試みる。
本研究とは異なる研究プロジェクトを遂行させる中で、Wnt11蛋白質が特殊な細胞外基質タンパク質と強く相互作用するという結果が得られた。この細胞外基質タンパク質とWnt11との相互作用は、Wnt11による平面内細胞極性の制御にも深く関係することが予想されたことから、本研究においてもその相互作用を含めた解析が必要と使用計画を見直した。2019年度はそのために遅れた研究を遂行し、研究目的の達成を目指す。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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