前年度までの解析結果から、「長寿バエ(DR-evolved flies)」の長寿形質は腸内細菌叢非依存的であることが示唆された。しかし、寿命解析においては、遺伝要因の他に環境要因の影響を大きく受けることが知られている。そこで本年度は、前年度の結果を確認するため、再度「DR-evolved flies」に抗生物質を給餌し、腸内細菌を除いた状態における寿命を観察した。その結果、前年度の結果と同様に、抗生物質給餌下においても「DR-evolved flies」の長寿形質は失われなかった。したがって、「DR-evolved flies」の長寿形質は腸内細菌叢非依存的であるという結果が支持された。また、「DR-evolved flies」では、加齢に伴う腸幹細胞の異常増殖が抑制されることを示唆する結果が得られていたため、本年度は、腸菅における細胞分化について解析を行った。 ショウジョウバエの腸管では、栄養吸収を担う吸収上皮細胞と粘液やホルモン産生を担う分泌性細胞の2種類の分化細胞が存在することが知られている。そこで、分泌性細胞のマーカーであるProspero抗体を用いて免疫染色を行い、分泌性細胞の数を定量的に調べた。その結果、コントロール系統と「DR-evolved flies」では、分泌性細胞の数に有意な差は見られなかった。したがって、「DR-evolved flies」では、腸幹細胞増殖の抑制により、加齢に伴う腸管上皮恒常性の破綻を抑制するが、分化の方向性には影響を与えないことが示唆された。
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