本研究は酵素の誕生と進化に関して次のような新シナリオを証明することを目的としている。①酵素は本来、基質特異性と反応特性が広いものである。②この広い特性のため、新しく獲得された代謝経路の一部はすでに祖先生物に存在していた。③この潜在的代謝経路が新しい機能的な代謝経路の原動力となった。 前年度の研究において、クロロフィル分解経路の最初の反応を担うSGR(Mg-dechelatase)のホモログが、光合成をしない(クロロフィルを持たない)バクテリアに存在し、それが水平移動して真核型の光合成生物に伝わり分解経路の酵素となったことを示した。さらに、このバクテリアのSGRホモログは高いMg-脱離活性をすでに持っていることを見出した。 H30年度は、酵素活性をさらに詳細に調べた。Km値はシロイヌナズナのSGRもバクテリアのSGRホモログも大きな違いはなかったが、バクテリアホモログのVmaxは生物種によって大きく異なり、高いものはシロイヌナズナよりも100倍以上高い活性を持っていた。このことから、Promiscuousな活性は従来考えられていたように選択圧がないために低いのではなく、その活性には揺らぎがあり、場合によっては本来の酵素よりも格段に高いことが明らかになった。また基質特異性を調べたところ、バクテリアのSGRホモログが広い基質特異性を持っていることが分かった。 これらのことから、次のようなシナリオを提案した。Promiscuousな活性には揺らぎがあり、場合によっては本来の活性よりも高い。この高いPromiscuousな活性を持った酵素が水平移動し、そのPromiscuousな活性は新しい細胞で生理的な役割を担うようになった。その後、新しい細胞で基質特異性などを獲得し、酵素として確立した。これらの過程を通じて新しい酵素、そして新しい代謝経路が確立したことを示した。
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