研究課題/領域番号 |
17K19424
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西原 秀典 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10450727)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 哺乳類 / 発現制御 / 転移因子 / 乳腺 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、転移因子が発生学的に重要な転写活性化因子の結合サイトを拡散増幅したことで、哺乳類の形態進化に関わるシス制御配列を増大させたことを証明することである。本年度は、乳腺の発生に関わる4種類の転写活性化因子のChIP-seqデータ解析を中心に進めてきた。その結果、転写因子の結合サイトが数十種類の転移因子内部に有意に濃縮されていること、および結合サイト周辺がopen chromatin状態にありH3K4me1およびH3K27acといった活性化エンハンサーとしてのヒストン修飾を受けていることを明らかにした。さらにこの一部については、実際にMCF-7細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにより、エンハンサー機能を有することを確認した。これらは遺伝子の転写開始点の比較的近傍に多く検出されることから、ヒトの乳腺細胞内でもエンハンサーとして機能していると考えられる。さらに、主要な転写活性化因子の結合モチーフが転移因子のコンセンサス配列内に存在することから、これらの結合サイトのシード配列が転移を介して拡散増幅されたことを示す証拠を得ることができた。この一連の解析パイプラインは、本年度までの解析で概ね充実させることができた。さらに本年度は、NCBIで公開されている他の転写活性化因子についても、網羅的な情報収集をおこなった。今後はこの情報を活用し、乳腺と他の組織の間で転写因子が結合するレトロトランスポゾンのレパートリーがどの程度一致するのかを明らかにすべく、同様のデータ解析と機能解析を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳腺の発生に関わる転写活性化因子については、培養細胞を用いたエンハンサー活性測定まで計画通りに進行している。またエピジェネティクス解析と周辺遺伝子のGO解析も終えており、これに関しては当初の計画以上に進展したと言える。一方、他の組織のChIP-seqデータ解析でもNCBI SRAで公開されているデータを網羅的に情報収集し、転移因子上の結合サイトの解析を開始した。これに関しても当初の計画に沿って進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
乳腺発生に関わる転写活性化因子群に関しては、それらが結合する転移因子の機能解析を継続し、転移因子の各サブファミリーの種類、転移時期、ゲノム上の転移位置がエンハンサー活性の獲得傾向とどのような相関性を示すのかを解析する予定である。また各転移因子配列のコピー間のDivergenceとタンパク質結合領域の保存性を比較し、その相対保存度が転移因子の種類ごとにどの程度異なるかを検証する。さらに今後は、マウスの乳腺組織由来のChIP-seqデータ解析もおこない、ヒトと同様の傾向が見られるか否かを検証する予定である。また乳腺以外ではヒトとマウスを含め50種類以上ものChIP-seqデータが公開されている。これについては哺乳類特有の組織形成に関わる転写活性化因子に関して順次解析を進める予定である。これまでの乳腺の解析を踏まえ、異なる組織間において同一種類の転移因子が結合サイトの増幅に寄与した例があるか否かを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞を用いた実験に関しては、予想外に既存の物品で十分補うことができる研究環境になり、また実験自体も滞りなく結果が得られたことから未使用額が生じた。また本年度は主にデータ解析の方面から重要な発見が相次ぎ、それに多くの時間を費やした。この未使用額は次年度以降におこなうエンハンサー機能解析や成果発表等に使用する予定である。
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