研究実績の概要 |
本研究は、オナジショウジョウバエ(以下オナジ)において新たに獲得された「他種(キイロショウジョウバエ、以下キイロ)のフェロモン7,11-HDを認識し、種間交雑を抑制する神経経路(以下7,11-HD求愛抑制経路)」の実態とその進化的期限を明らかにすることを目的とした。材料としては、行動解析により7,11-HD求愛抑制経路を持つことが推定されるオナジとキイロの雑種を用いた。初年度には、雑種の7,11-HD求愛抑制経路の入口となる味覚ニューロン群(以下GrXニューロン)を特定し、その行動機能がキイロと雑種で異なることを明らかにした。GrXニューロンの数や形態に明確な違いがなかったことから、この機能の違いがGrXニューロン自体の解剖学的性質に起因するとは考えにくい。 そこで最終年度は、GrXニューロンの行動機能の違いは、その下流に接続するニューロンの違いによるという仮説を、特定の2つのニューロン群間の神経接続を再構成GFPで可視化するGRASP法を用いて検証した。下流に接続するニューロンとしては、GrXニューロンの出力部位付近に投射部位を持ち、求愛を抑制する効果が知られるニューロン(以下Yニューロンと呼ぶ)を候補とした。GrXニューロンとYニューロンにGRASP法を適用すると、キイロでは再構成GFPシグナルが観察されなかったのに対し、雑種では再構成GFPシグナルが観察された。この結果は、雑種のGrXニューロンは抑制性Yニューロンと接続することで求愛を抑制するのに対し、キイロのGrXニューロンはYニューロンと接続せず、これにより求愛抑制効果を持たないことを示唆している。すなわち、オナジにおける7,11-HD求愛抑制経路の新たな出現は、GrXニューロンとYニューロンとの神経接続によって成立した可能性が高い。
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