研究課題/領域番号 |
17K19426
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
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研究分担者 |
伊藤 英之 京都大学, 野生動物研究センター, 特任研究員 (10779648)
大沼 学 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (50442695)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | メチル化 / 野生動物 / 鳥類 / 年齢 / DNA |
研究実績の概要 |
鳥類などの寿命の長い種では、保全に必要な遺伝的多様性が、どの年齢集団、どの世代の個体間のものなのかは、大変重要であり、DNAによる年齢推定が実現できれば、野外での生態学的研究に画期的な進歩をもたらすことが期待できる。しかしこれまで野生動物全般、とりわけ鳥類については、ほとんど報告がなかった。本研究では、鳥類において、哺乳類で報告された年齢に伴うメチル化変動の指標となる候補遺伝子の相同領域を調べ、メチル化と年齢の関連を解明することを目指す。メチル化検出による野生動物の年齢推定の実用性を、1)鳥類の年齢とメチル化の度合いは関連するか?2)非侵襲的に得られるDNAからも、メチル化の検出が可能か?3)野生集団の年齢構成の情報による観測情報の補完、の3つの段階を経て確認する。 本年度は、DNAメチル化を用いた年齢査定を希少動物で確立するため、まずはヒトとゲノム配列の類似性が高く、絶滅危惧種であるチンパンジーでの応用を試みた。ヒトにおいてメチル化割合と年齢との関連性が報告されている3つの遺伝子について、年齢が既知のチンパンジーにおいてメチル化率を測定した。その結果、2つの遺伝子で有意な相関が認められ、これら2つの遺伝子から作成された年齢推定式の誤差は5.4年であった。次に絶滅危惧鳥類への応用に向けた準備を開始した。ヤンバルクイナの飼育個体について検討した。環境省・ヤンバルクイナ飼育繁殖施設のヤンバルクイナ導入情報および国立環境研究所の試料保存情報を参照し、確実に年齢が記録されている個体の保存試料(血液、DNA)のうち5試料の提供を受け、DNAを抽出した。フンボルトペンギン飼育個体についても、血液30試料からDNAを抽出した。ハシボソミズナギドリの文献にもとづく20遺伝子座について、これら鳥類種での相同配列を解読し、バイサルファイト処理後のメチル化率を測定するプライマーを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、年齢とメチル化の度合いは関連するかについて、まずはヒトとゲノム配列の類似性が高く、絶滅危惧種であるチンパンジーでの応用を試みた。血液からDNAを抽出し、バイサルフェイト処理した後、ヒトで年齢とメチル化の関連が報告されている遺伝子ELOVL2, CCDC102B, ZNF423の配列にもとづいて設計したメチル化対応プライマーでPCR増幅し、パイロシーケンス法で塩基配列を解析した。年齢との相関が低かったZNF423を除いて、ELOVL2とCCDC102Bの2遺伝子5か所と年齢の相関係数を求めたところ0.74(p = 0.0318)であった。これら2つの遺伝子から作成された年齢推定式の誤差は5.4年であった。8個体の20年間の比較でも、個体による差違が見られたものの、ほぼ同様の傾向が得られた。以上の結果は論文にまとめ、投稿中である。 次に絶滅危惧鳥類への応用に向けた準備を開始した。寿命が10年以上と長く、各年齢での試料が容易に得られ、生育環境が同一の、ヤンバルクイナの飼育個体を対象とした。環境省・ヤンバルクイナ飼育繁殖施設のヤンバルクイナ導入情報および国立環境研究所の試料保存情報を参照し、確実に年齢が記録されている個体の保存試料(血液、DNA)のうち5試料の提供を受け、DNAを抽出した。また京都市動物園で飼育され年齢が判明しているフンボルトペンギンについても血液30試料からDNAを抽出した。ハシボソミズナギドリの文献にもとづく20遺伝子座について、これら鳥類種での相同配列を解読し、バイサルファイト処理後のメチル化率を測定するプライマーを作製した。さらに、ヤンバルクイナの全ゲノム情報から、他の鳥類種の既報の候補遺伝子に相当する塩基配列の抽出を行った。以上より、計画は順調に進展し、哺乳類についても新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
以上の結果を踏まえ、1)鳥類の年齢とメチル化の度合いは関連するか?について、前年度の年齢や組織ごとの比較検討を、個体数や遺伝子数を増やして実施する。哺乳類や家禽で報告されたのとは異なる遺伝子が、メチル化マーカーとして有用である可能性もある。ヤンバルクイナの若齢と老齢、各1試料の全ゲノムをバイサルファイト処理の前後に次世代シーケンサーを用いて解読し、すでに解読している全ゲノム配列と比較することで、加齢に伴ってメチル化が増減する領域を検出する。(村山、大沼、大学院生) 2)非侵襲的に得られるDNAからも、メチル化の検出が可能か?については、チンパンジーのフン由来のDNAからのメチル化の検出を試みる。野生鳥類の非侵襲的な解析を目指すために、羽根から抽出したDNAにおいて、1の血液と同じ結果が得られるか調べる。さらに、巣に残されたふ化後の卵殻膜やフン由来のDNAについても試みる。ヤンバルクイナでは、交通事故の死亡個体が年間30個体以上回収されるので、これらの各組織も用いる。(村山、伊藤、大学院生) 1)2)の結果にもとづいて、野生由来の試料での年齢推定を行う。
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