研究課題/領域番号 |
17K19430
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
田村 浩一郎 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00254144)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 組換え / 進化 / ヘテロキアズミー |
研究実績の概要 |
アキアズミーは、異形性染色体を持つ方の性で減数分裂組換えが全面的に抑制される現象で、性染色体が常染色体から進化する過程で必要な減数分裂組換え抑制のための一つのメカニズムと考えられている。本研究では、雄で減数分裂組換えが起こらないアカショウジョウバエと、その姉妹種で雄でも減数分裂組換えが起きるテングショウジョウバエを交雑し、両種のゲノムをいろいろな組み合わせで持つ雑種を作成し、それらについて減数分裂組換えの有無と精子形成過程のトランスクリプトームを比較することによって、アキアズミーの遺伝基盤を解明することを目的とする。 初年度は、アカショウジョウバエとテングショウジョウバエを交配してF1個体を作製し、その雄個体を親系統に戻し交配して組換えの有無を調べた。まず、両種の間に組換えを抑制する染色体逆位があるかどうか、F1の3齢幼虫の唾腺染色体を観察し、逆位ループの有無を調べた。その結果、アカショウジョウバエのNG3、HRS402系統、テングショウジョウバエのVNS23、TNR35系統を用いた場合、F1に逆位ループが観察されないことを確認した。そこでVNS23♀×NG3♂、TNR35♀×NG3♂、HRS402♀×TNR35♂の3通りの交配についてF1♂の第2染色体のSurf4とCaBP1、第3染色体のGstS1とPgmの間で組換えの有無を母親系統への戻し交配によって調べたところ、いずれにおいても雄組換えは検出できなかった。さらにF1での雄組換えの有無をゲノム全域について調べるため、合計24遺伝子の配列をマーカーとして用いHRS402♀×TNR35♂のF1♂における組換えを調べた。その結果、得られた19戻し交配個体の22遺伝子の塩基配列を調べても組換え体は検出できなかった。以上の結果から、アカショウジョウバエとテングショウジョウバエのF1では雄組換えは起こらないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、アカショウジョウバエとテングショウジョウバエのF1およびいろいろな遺伝的構成の戻し交配個体について雄組換えの有無をゲノム全領域について調べ、雄組換えとそれを抑制するアキアズミーの分子メカニズムとその進化を明らかにすることを目的としているが、初年度は、まずゲノム全領域に渡る24遺伝子をマーカーとして用いる準備を行った。しかし、用いた4系統の配列間の差異が予想以上に大きく、PCRプライマーの設計に予想以上の時間を費やした。また、雄組換えの有無を調べるためには、戻し交配によって生まれてくる個体のかなりの数の配列を決定する必要があり、多数個体についてDNA抽出から塩基配列決定に至る実験操作にも予想以上の時間を要した。その結果、当初予定していたよりも次世代シーケンサーによる配列決定が進まず、次年度に繰り越される結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の研究計画を引き続き推進し、アカショウジョウバエとテングショウジョウバエにおける雄組換えとアキアズミーの分子メカニズムおよびその進化を明らかにする。現在、多数個体から一度にDNA抽出を行う方法を開発中で、完成すれば初年度の遅れは取り戻せると期待している。また、当初計画ではいろいろな遺伝的構成をもつ戻し交配個体から系統を確立する予定であったが、戻し交配ごとに雄組換えの有無を確認した後、組換えの有無毎にプールして次世代シーケンサーで配列を決定するPooled-GWASを行うことに計画を変更し、原因遺伝子が存在するゲノム領域の絞り込みの効率向上を図る。2年目にはアカショウジョウバエとテングショウジョウバエ、およびそのF1について、精巣のトランスクリプトームをRNA-seqによって調べ、雄組換えの有無によって発現に差のある遺伝子の探索を行う。候補遺伝子が得られた場合、3年目にはキイロショウジョウバエを用いた強制発現やノックダウンによる検証も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度当初に計画していた次世代シーケンサーを用いた配列決定が、実験計画の遅延により次年度(2018年度)に先送りされたため、そのための経費も次年度に繰り越される結果となった。 先送りされ2018年度に行う次世代シーケンサーを用いた配列決定のための消耗品費購入のために使用する。
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