研究課題/領域番号 |
17K19431
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
小杉 真貴子 中央大学, 理工学部, 助教 (00612326)
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研究分担者 |
原 光二郎 秋田県立大学, 生物資源科学部, 准教授 (10325938)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 生理生態 / 光合成 / 極域 / 適応戦略 / 光応答 / 環境ストレス応答 / 緑藻 |
研究実績の概要 |
南極の露岩域に広く分布するPrasiola crispa の近赤外線領域に顕著な吸収を持つクロロフィルが結合したタンパク質(成分710)の生理学的特性を明らかにするため、基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを用いて光合成酸素発生活性の波長依存性を測定した。その結果、藻体の透過スペクトルとアクションスペクトルの形状はよく一致しており、成分710に吸収された近赤外線が高い励起エネルギーを必要とする光化学系IIを効率良く励起することが明らかとなった。密度勾配遠心法とイオン交換クロマトグラフィーによりP. crispaから成分710を精製し、ペプチド分解後にN末端アミノ酸シーケンスを行うことでアミノ酸配列の一部を特定した。次にP. crispaの培養株を用いて成分710の発現条件を明らかにし、その条件を用いてRNA-seq法による発現変動量解析を行った。cDNAライブラリーの作成は秋田県立大学のバイオテクノロジーセンターに委託した。HiSeqによる次世代シーケンシングで得られたリードからde novoアセンブリを行い、最終的に134,053個のコンティグを得た。発現変動量解析により成分710のタンパク質の発現量と相関が見られたコンティグの中から、アミノ酸シーケンス解析で特定したアミノ酸配列を持つものを検索することで成分710の全アミノ酸配列を推定した。Blast検索の結果、一部の緑藻で相同性の高いタンパク質が登録されていたが、光捕集アンテナタンパク質(LHC)の一種であることまでしか分からなかった。推定されたアミノ酸配列から3次元構造の予測を行ったところ、一般的なLHCタンパク質と同様に3回膜貫通へリックス構造を持つことが明らかになったが、クロロフィルが配位しているアミノ酸残基には違いが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近赤外光吸収成分(成分710)の機能解析は生理学的解析と分子生物学的解析の二方向から行っている。生理学的解析は計画した3つの解析のうち、光合成活性の波長依存性の解析とアミノ酸シーケンス解析の2つを終了した。これらの結果から、成分710の生理生態学的役割について設定した2 つの仮説のうち、近赤外線を光合成に利用している可能性が実証された。分子機構の解析はRNA-seqによるタンパク質の発現解析を実施したが、コンタミしていたバクテリアとのキメラ配列が生成するという問題が生じた。しかし、RNA-seqとアミノ酸シーケンスの分析の結果から、第一の目的としていた成分710のアミノ酸配列の特定は達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の課題3「成分710 の極域環境下における生理学的役割の解明」のため、南極の生育環境に微気象観測機器を設置する。測器の組み立ては業者に依頼し、9月までに国立極地研究所の施設を利用して試運転を行う。測器の設置場所は東南極地域のラングホブデにあるP. crispaの群落周辺を予定している。国立極地研究所と日本南極地域観測隊の協力のもと観測器設置とデータの取得を行う。 生理学的解析においては、近赤外光吸収成分(成分710)が光捕集アンテナタンパク質の一種であることが明確になったことから、ステート遷移や光エネルギーの熱散逸といった光障害防御機構を担っている可能性を検証していく。分子機構の解析においては、RNA-seq解析の際に起きたキメラ配列の問題解決を試みる。既に報告されているP. crispaのトランスクリプトーム解析データと照合し、成分710の発現に連動して発現量が変化したタンパク質の同定を目指す。また、本種の分子生物学的解析を促進させるため、文部科学省科学研究費助成事業「先進ゲノム支援」に応募しP. crispaのドラフトゲノムの取得と光合成関連遺伝子の特定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
アミノ酸シーケンス解析を外部委託する予定であったが、基礎生物学研究所の共同研究支援を受けて解析することができたため正の差額が生じた。生じた差額は平成30年度に予定している野外調査のための物品費や諸経費に充てる。
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