新たに、コスジオビハマキ昆虫ポックスウイルスにもエレメントが存在することが明らかとなった。チャノコカクモンハマキ昆虫ポックスウイルス(AHEV)では、エレメント2本と相互作用している株、エレメントを1本しか持たない株、環状構造のもの、直鎖状のものと多様性を示した。ゲノム上の遺伝子の種類や系統解析から、本エレメントは、多様なトランスポゾンpolintonの中から進化したものであると考えられ、既知のpolinton様エレメントとは異なる全く新しいものであり、最もトランスポゾンpolintonに近いものであることが示された。また、本エレメントと相互作用している昆虫ウイルスが持つ遺伝子ホモログをももっており、ウイルスの進化に影響していることも推定された。本エレメントは、脊椎動物の病原ウイルスを含むポックスウイルス科のウイルスで初めて確認された新規のモバイルエレメントであり、ウイルス学的、そして保険衛生学的な観点から社会的にインパクトが高い。 野外のチャノコカクモンハマキ個体群では、本エレメントは、AHEVに感染している個体にのみ存在しており、伝播や複製をAHEVに依存していることが強く示唆された。AHEVが感染する培養細胞を見出し、複製について調べたところ、本エレメントは、やはりAHEVに依存して複製していることが明らかになった。また、本エレメントとウイルスは、宿主昆虫内で著しく複製しており、これまで知られているヴィロファージのようなウイルスの複製をほぼ許さない強い負の相互作用とは全く異なることが明らかになった。polinton様エレメントが及ぼすウイルスとの生態学的な相互作用の多様性を示しており、重要な知見である。ウイルスー宿主の個体群動態にどのような効果があるのか、疫学的にも生態学的にも重要な研究課題を生み出した。 本エレメントが昆虫のゲノムに入っている証拠は得られなかった。
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