地球上には膨大な数の微生物が存在しており、そのかなりの部分が海洋地下圏や土壌地下圏に生息していると考えられている。地下環境中には、酸素の替わりに地下圏に大量に存在する金属酸化物(鉄)に電子を移送して呼吸する固体鉄還元微生物が広範に存在する事が知られている。また、金属酸化物から供給される電子は、微生物の生命活動を支える主たるエネルギー源である可能性も出てきた。そこで本研究では、多種多様な掘削コア等に含まれる地下圏微生物群を用い、地下圏における「固体に電子を供与し呼吸する微生物」や「電気をエネルギー源とする微生物」の存在の有無を明らかにし、地下圏に存在する電気に依存する生命圏の探索に挑戦した。 まず、地下圏における電気に依存する微生物の動態を知るため、港湾堆積物、下北沖掘削コア、襟裳沖掘削コア、海底の蛇紋岩海山の掘削コア、そして南関東ガス田において地下から湧出する天然ガス田湧出地下水の地下圏微生物群を微生物電気化学リアクターに供し、発電培養あるいは電気合成培養を行った。その結果、天然ガス田を胚胎する地下水を用いた電気合成培養と港湾堆積物を用いた発電培養において良好な電流産生が見られ、電気に依存して生きる微生物バイオフィルムが電極上に形成される事が分かった。この電極上に形成された微生物群集のメタオミクス解析を行った結果、酢酸あるいは水素が発電微生物の重要な栄養基質であり、海水地下圏ではGeoalkalibacter属、汽水地下圏ではGeobacter属に属する発電微生物が機能している事が示された。また、海水地下圏における電気メタン合成微生物としてMethanocalculus属とMethanobacterium属が機能している事が示唆された。本研究結果より、地下環境には地下電気生命圏を形成しうる様々な微生物群が存在する事が分かった。
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