ミトコンドリアはシナプス可塑性,シナプス形成,軸索刈り込み,アポトーシス,ニューロン・グリア変性疾患など様々な生理機能や病態機序に関わっているオルガネラである。本研究課題では,ミトコンドリアからのプロトンやカルシウムイオン流出入,ミトコンドリア膜電位,ATP産生を時空間分解能に優れた光で制御し,その効果や影響を解析する新たな研究を展開するための技術基盤の構築を目指した。平成29年度の研究において,光駆動プロトンポンプの一種であるArchTをミトコンドリアに効率よく局在化させるターゲティングシグナル(ここではMito-Xシグナルとよぶ)の同定に成功し,Mito-Xを付加したArchTの分子構成の最適化,最適化したArchTと他のミトコンドリアマーカー分子との発現を比較する免疫組織化学的研究を主に進めてきた。平成30年度は,Mito-Xを付加したArchTの機能解析を試みるため,最適化された分子やその作用をレポートするレポーター分子を発現させるためのプラスミドベクターを構築し,培養細胞に発現させることでこの分子の有効性を評価する機能解析実験を計画,評価する予定でいた。予備実験では,この分子が期待通りのトポロジーでミトコンドリア内膜に発現していることを支持するデータが得られていたが,7月以降からの実験室の大幅な改装改築工事などにより,細胞培養や機能解析実験を継続して行うことが困難となり,最適化した分子ツールの機能解析とその性能評価は十分には行えなかった。今後の研究によって,その詳細な機能解析を試みる。
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