研究課題
神経回路は、多数の神経細胞の集団的な活動によって機能を生み出す。カルシウムイメージング等の測定技術の進展により、近年、脳内の多数の神経細胞の活動を同時に記録することで、脳がシステムとしてどのように機能しているのかを明らかにしようとする研究が世界的に進行している。神経細胞の細胞体で測定する従来の研究は、神経回路の集団的振る舞いについて詳細な解析を可能にしている。一方、神経回路の集団活動を規定するのは、神経細胞間の情報伝達であり、それはシナプス部で起こる。シナプスは細胞体に比べて一桁ほど小さいため、神経活動の測定は容易ではない。最近の研究において我々は、細胞体からの活動記録では見過ごしてしまう重要な情報がシナプスレベルの活動測定を行なうことで得られることに気付いた。そこで、本研究では、技術的な困難を克服することにより、シナプス集団の活動イメージングをショウジョウバエ幼虫の全脳で行なうことで、より包括的な神経活動測定系の構築に挑戦している。これまでに、シナプス部での神経活動を効率よく測定できるプローブの開発に成功している。そこで、本年度は、これらのプローブで神経系全体のシナプスを可視化するために、新規系統の作成を進めた。まず、プローブの発現量を増やすために、神経系で遺伝子発現用の遺伝子(Gal4)を誘導するトランスジェニック系統を複数作成した。また、Gal4システムとは別のLexA-LexAopシステムでプローブを発現する系統を作成した。更に、神経組織での散乱を抑えて、より深部からのイメージングを行なうために、長波長プローブR-CaMP2 の発現系統を作成した。以上の系統は全て幼虫の神経系での高発現が確認できており、神経系全域におけるシナプスイメージングを可能にする系統が作成できたと言える。
2: おおむね順調に進展している
全神経系のシナプス可視化を行なうために必要な種々のトランスジェニック系統の作成を進めた。その結果、Gal4-UASシステムを使って膜局在GCaMP6f及び、R-CaMP2を発現させる系統、及び、LexA-LexAop システムを使って膜局在 GCaMP6f を発現させる系統を作成した。免疫組織学的解析により、これらの系統は全て神経回路で高効率にプローブを発現させることが明らかになった。また、微弱な蛍光を安定して検出するために、励起用レーザを改良して高出力化と安定化を行なった。更に、作成したトランスジェニック系統を基に、プローブ遺伝子のコピー数を増やした系統を遺伝学的掛け合わせにより作出した。
これまでに作成したプローブ系統を用いて、計画予定通りに神経組織全体のシナプスイメージングを進め、時系列データの統計解析を行なう。そして、解析データに基づいて、神経回路ダイナミクスの制御を担うシナプスを探索し、遺伝的モザイク法を用いて、それらの神経細胞の遺伝的同定を進め、全シナプスイメージングに基づいた回路解析を進める。
本年度は、データの取得・解析よりも、高発現系統の作成を集中して行なった。本年度に予定していた、データ解析用物品の購入は、次年度行い、効率よくデータ解析を推進していく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Neuron
巻: 96 ページ: 1373~1387.e6
10.1016/j.neuron.2017.10.030
生体の科学
巻: 68(5) ページ: 478-479
http://bio.phys.s.u-tokyo.ac.jp/