研究課題/領域番号 |
17K19439
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
能瀬 聡直 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30260037)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / カルシウムイメージング / 神経回路 / シナプス / 神経活動ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、ショウジョウバエ幼虫をモデル系として用い、シナプス活動イメージング、統計的データ解析、遺伝学を駆使して、シナプス集団の活動ダイナミクスの解析を行なっている。 今年度は、シナプス集団の活動パターンの定量的解析と、そのパターンの各相を担うシナプスのデータ解析による同定を進めた。全ニューロンにカルシウムプローブを発現させた個体を用いて、中枢神経系におけるシナプスの蛍光強度変化を観測した。シナプスは細胞体に比べて高密度に存在するため、形態のみから個々のシナプスを分離することは容易ではない。そこで、単一のシナプスを構成する画像上のピクセルは、同じような蛍光変動するという過程に基づいて、統計力学的な最適化手法であるsimulated annealing法を用いてピクセルをシナプスにクラスタリングした。これによりシナプスの特徴的な形態と活動を抽出することに成功した。 ショウジョウバエ幼虫の中枢神経系は、動物の運動(前進運動、後進運動)を反映して、尾側から頭側へ伝播する活動波、および逆に頭側から尾側へ伝播する活動波、という回路活動パターンを示す。これらの活動パターンにおける個々のシナプスの活動を解析した。すると、単一の神経節内においてシナプスの活動順序は明確な時間構造を示すことが分かった。各神経節内では、大部分のシナプスはほぼ同時に活動し、他の部分ではその同時活動に続いて徐々に活動が伝播していく様子が観察された。さらに、この傾向は前進運動パターン、後進運動パターンの双方において見られたが、その同時活動するシナプス群が双方の間で部分的に一致しないことが分かった。このことから運動制御回路は、各行動に対する共有部分と特化した部分に分解可能であることが示唆された。 以上の結果から、神経回路内にモジュール構造が存在し、それらの組み合わせの違いによって異なる運動パターンが生成される、という回路描像が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シナプス集団の活動解析を実現するためには、大規模カルシウムイメージング画像データから、個々のシナプスを分離・同定することが必要であるが、シナプスは互いに類似していて、しかも密集しているので、通常の物体識別アルゴリズムではシナプス構造の分離は困難である。本年度は、統計物理学の分野で開発されている多自由度状態探索アルゴリズムであるsimulated annealing法を導入することにより、このシナプス分離に成功し、研究が大きく前進した。一方、測定装置の故障により一時的にデータ取得に遅れが発生した。そこで、修理の間にシナプス構造の分離、統計的データ解析手法の最適化に注力し、データ解析プロセスの効率化を実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、神経回路の集団活動における個々のシナプスの活動ダイナミクスの解析を進めることにより、個々のシナプスの機能的役割を明らかにする。特に、異なるシナプス間の揺らぎの相関を統計的に解析することにより、互いに強く結合していると考えられるシナプス群を同定し、全シナプス集団を、特定のダイナミクスを示す部分集団にクラスタリングする。そして、その部分集団で遺伝子発現を誘導するトランスジェニック系統を探索・利用することにより、それらのシナプスの活動を亢進・抑制したときの神経回路ダイナミクスの変化を解析することで、回路ダイナミクスがシナプス集団間の相互作用によってどのように生み出されるのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたシナプス部での神経活動測定について、測定装置の故障により研究の遂行が遅れたため。 使用計画
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