アストロサイトは細胞外環境の維持に重要であり、伝達物質を放出することで、神経活動や神経可塑性、そして記憶に影響する。本研究では、in vivoでアストロサイト特異的にcAMPを上昇できる遺伝子改変マウス(Mlc1-tTA::tetO-PAC(mlc1-PAC)マウス)を作製し、アストロサイトcAMPの上昇の記憶に対する影響を調べた。このマウスにおいて、PACがアストロサイト特異的に発現していること、そしてin vitroおよびin vivoで青色光刺激がアストロサイトのcAMP上昇を誘起できることを確認した。また、空間記憶課題において、海馬のアストロサイトcAMPを上昇させたところ、学習時のcAMP上昇が記憶を長く保持させることを発見した。また、学習以外の時にcAMPの上昇は記憶保持を障害することを見出した。このことから、アストロサイトcAMPの上昇タイミングによって記憶を双方向に制御されることが示唆された。さらに、この現象のメカニズムを調べるにあたって、アストロサイトのcAMP上昇が神経細胞のNMDA受容体を活性化し、神経活動マーカーであるcFosの発現を誘導することを突き止めた。なお、NMDA受容体の阻害はアストロサイトのcAMP上昇による記憶の変化をブロックした。つまり、アストロサイトのcAMP上昇は神経細胞の活性化することで記憶の変化を誘導することが示唆された。本研究は、in vivoでcAMPシグナルを操作する光遺伝学のツールを開発し、アストロサイトにおけるcAMP操作に成功した。そして、アストロサイトのcAMP上昇が記憶を双方向に制御できることを示し、in vivoでアストロサイトのcAMPシグナルの重要性を示した初めての研究である。
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