研究課題
本研究の目的は、生体内に存在し機能するタンパク質分子を正確に検出する方法を新たに開発し、その手法を神経系で機能する分子群に応用することである。この目的のために、抗体に代わる低分子量のケミカルプローブとその認識するペプチドタグを組み合わせた系を採用する。ペプチドタグは、標的分子の機能に影響しないと予想される部位を構造生物学の知見から想定し挿入する。なお、タグの挿入は、遺伝子編集法を用いてマウス胚に直接組み入れ、迅速に解析対象の動物を作出する技術を整備する。このために、2つの方向から研究開発を進めている。1つは、迅速なタグノックインマウス樹立法の確立である。このために1本鎖DNAとCas9タンパク質/gRNA複合体を授精直後のマウス卵管内に注入して、電気泳動的に胚導入し、目的のタグ配列をノックインしたマウスを直接作出する手法の検討をおこなった。今1つは、当該タグを持つ分子の動物個体における低分子ケミカルプローブによる検出である。これらの目的のために、本研究では九州大学大学院薬学研究院成体分析化学分野王子田教授のグループが開発したケミカルプローブとその認識タグ配列を利用した。また、その作動確認はオーストリアの重本教授と共同で形態的側面から進める。卵巣内電気穿孔法によるタグ配列挿入マウスの樹立は一部成功しており、この方法の有用性が証明されたので、さらなる効率化を目指して改良をおこなっている。さらに、ケミカルプローブによる分子同定に関しては、タグ標識分子発現マウス脳を固定してオーストリアに送り、重本教授と共同で解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
NMDA型グルタミン酸受容体のサブユニット構造を電子顕微鏡で可視化するプロジェクトに関しては、九州大学大学院薬学研究院成体分析化学分野王子田教授のグループが開発した、金粒子ラベルした亜鉛錯体プローブが共有結合する20アミノ酸残基からなるhD2タグをGluN1分子にノックインしたマウスを作製した。この分子の機能に影響を与えないと思われる部位をその結晶構造から推定した。次に迅速にタグをノックインするために、挿入配列を持つ1本鎖DNAとCas9タンパク質/gRNA複合体を授精直後のマウス輸卵管に注入し、電気穿孔法で導入をおこなった。その結果、複数の産子でhD2タグがGluN1分子にノックインしていることが確認できた。現在これらの産子の子孫を採るべく繁殖を進めている。また、これとは別の種類のタグを同様な方法で挿入する試みをおこなっている。さらに、効率的にタグ挿入マウスを樹立するために、卵管電気穿孔法の諸条件の検討を進めている。また、NMDA型受容体を構成する他のサブユニットであるGluN2A及びGluN2BをGluN1とは異なったケミカルプローブで検出するためにHisタグを挿入したマウス作製の準備を進めている。タグを挿入した分子を培養細胞で発現させ、その受容体機能に影響しないことを検討している。さらに、AMPA型受容体サブユニットGluA2へのタグ挿入計画を進めている。
これまでに樹立した、hD2タグラベルGluN1マウスを繁殖させ、固定した脳をオーストリアの重本教授に送付して、金属粒子ラベルケミカルプローブでの同定をおこない、本方法の有用性を検証する。また、現在進めている各種タグマウスを樹立し、蛍光ラベルケミカルプローブでの検出をおこなう。さらに、AMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluA2にCre依存的にエクソンスワップがおこり、タグ配列が発現するマウスを樹立する。このためにflexタイプのベクターを構築し、ES細胞での組換えをおこない、キメラマウスを作製する。これらの計画を遂行することにより、本研究目的を達成できると考えている。
九州大学大学院王子田教授のグループによるケミカルプローブとその認識配列の開発は、日進月歩の状況であり、より特異性高く高感度で分子同定ができる系の確立を待っていたために、挿入タグ配列が決まらずその点で遺伝子編集に係る分子生物学的な準備が遅れた。この遅れを挽回するために、卵管電気穿孔法に用いるマウスを自己繁殖せずに業者から購入してその推進を図る。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (24件) (うち国際共著 6件、 査読あり 24件、 オープンアクセス 17件) 学会発表 (45件) (うち国際学会 42件、 招待講演 1件)
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