研究課題/領域番号 |
17K19447
|
研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
斉藤 治美 玉川大学, 脳科学研究所, 研究員 (20311342)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 神経回路 / 高次中枢 / 受容体 / 単一糸球体 |
研究実績の概要 |
マウスの神経回路の探索については、これまでに作成した嗅覚受容体にチャンネルロドプシン改変マウスとArc-cre改変マウス、およびアデノ随伴ウィルスによるDREADDを組み合わせることにより、単一の受容体を発見する嗅神経細胞から形成される糸球体のみを特異的に活性化された際に、その情報を受け取る嗅皮質内の特定の領域を選択的に不活化し、すくみ行動や忌避行動を特異的に消失させることが出来るかを検証する実験系を行った。結果は、一対の糸球体という最小の単位の情報によって活性化される嗅皮質内の領域は、単一の匂い分子の刺激を受けた際の脳内の活性よりも限局していることもあり、忌避行動は消失しないがすくみ行動のみ減少する領域が存在することが分かった。忌避行動に関しては、単一の領域ではなく、特定の複数の領域を不活化した際に減少する傾向が有ることが分かった。また、GFPをアデノ随伴ウィルスに組み込んだウイルスベクターを用いてこれらの嗅覚皮質の領域から高次中枢内への投射領域を観察したところ、ウイルスの感染が広範囲で、今後改良する必要性は有るものの、それぞれの領域から視床への投射経路の相違が有ることを確認することが出来き、これらの成果の一部を学会で報告する事が出来た。 更に 平成30年度後半からこの様なマウスの神経回路探索の実験技術や経験を生かして霊長類の高次中枢の神経回路の探索を行う為の実験準備を行った。まずは、マカクザルの脳組織を採取し、高次中枢内の特定の領域からレーザーカッターによって神経細胞を採取し、遺伝子の発現を検索する準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスにおける高次中枢の神経回路の探索は、特定の嗅覚受容体の下流にチャンネルロドプシンを結合させた改変マウスとArc-プロモーター下でcreを発現する改変マウスを用いて、人為的に嗅球の表面に光刺激与えることによって単一の嗅覚受容体を発現する神経終末から形成される糸球体のみを活性化し、この刺激によって活性化された高次中枢の神経細胞のみにCreを発現させた。更に、アデノ随伴ウィルスを用いてDREADD (hM4Di)を導入することによって嗅皮質の特定の領域を不活化し、loss of function の実験を行うという今回の実験計画は、嗅皮質の領野内の特定の領域の特定と機能的意義を明らかにするという点で意義がある。実験結果は、hM4Di-GFPの蛍光の発現は弱かったものの、CNO 投与により、特定の嗅皮質内にウィルスを投与した場合にのみすくみ行動または忌避行動が特異的に減少したことが観察された。このことにより、今回、この実験システムが先天的な情動行動を誘因する領域の特定する実験として有用である事が分かった。この研究成果、及びこれまでの嗅覚の情動行動を誘引する神経回路を入力から高次中枢へと段階的に探索した研究成果を学会で報告出来た。 更に平成30年度は、霊長類の高次中枢の神経回路の探索の実験準備を始めた。霊長類の脳の構造はげっ歯類と比べると更に複雑で神経回路ネットワークの作用機序が分かっていない部分が多いため、今後、これまでのマウスの神経回路の探索の経験を生かして、分子生物学的手法を用いた遺伝子導入技術を用いて霊長類の神経回路を探索することにより、新しい知見を得ることを期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
霊長類の高次機能において、先天的な情動行動と学習による情動行動おける複雑な情報処理機構を神経回路レベルで探索するためには機能単位を明らかにする必要があると考えた。近年マウスでは、分子生物学的手法による神経細胞種の分類および遺伝子導入技術による個々の細胞種の機能や投射経路の探索が進んでおり、霊長類では形態学的な分類はされているが、分子レベルでは未だにその詳細が分かっていない。そこで研究代表者は、Single Cell-PCR法を用いて大脳皮質の同一の領野・層構造中に形態学的に相違の見られる興奮神経細胞から遺伝子をクローニングし、In Situ Hybridization、および免疫染色法を用いて遺伝子発現や蛋白の発現を検索し、脳内の特に興奮性ニューロンに特異的な発言パターを示す遺伝子あるいは蛋白が存在しないか検索する。現在、レーザーカッターにより細胞を採取し、個々の細胞からcDNAを採取することが出来た為、今後、マウスの遺伝子情報やdegenerate primerにより、遺伝子のクローニングを行い、脳内の遺伝子の分布を検索していく予定である。留意する点は、マウスの脳内における遺伝子発現は霊長類と大きく異なる場合も多い為、解析する際には、多くの脳内の領野との比較が必要であると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は当初の研究計画に加え、更に霊長類の高次脳機能領域における機能的神経回路の探索も行う必要が出てきた為に、当初の実験計画より実験準備に時間を呈してしまった。研究目的の達成のためにはレーザーカッターを用いて大脳皮質内の同種の細胞の採取を継続して行い、次に、Single cell RT-PCR、In situ hybridization、免疫染色を行い、大脳皮質内において神経細胞種特異的に発現する遺伝子及び蛋白の解析を行う予定である。これらの実験成果や設備等は将来的に行っていこうと考えている遺伝子ライブラリーの作製や神経回路探索のシステムの作製の基盤作りとしたい。 今回の実験を行う際には、細胞採取用スライドグラス、染色用試薬、RNA抽出、cDNA合成、PCRに必要な試薬とプライマー及び、蛋白の発現の解析の為の染色用試薬抗体一式を購入する予定である。
|