脳には感覚情報に基づいた様々な空間地図が存在する。しかしながら、聴覚の空間地図が、哺乳類の聴覚伝導路のどこで、どのように形成されるのかは未だ明らかでない。これは、聴覚神経核の多くが脳深部にあり、多細胞Caイメージングが困難であったことが主な原因である。従って本課題では、近年進歩の著しい神経内視鏡技術を齧歯類の聴覚伝導路の神経核に適用し、Ca感受性の緑色蛍光蛋白質(GCaMP6)を用いた多細胞Caイメージングを行うことにより哺乳類の聴覚地図の実体を明らかにすることを目的としている。 昨年度に引き続き、本年度もin vivoでの電気穿孔法による聴覚神経細胞への遺伝子導入法の検討を行った。ガラス電極を用いて脳定位的にベクターの圧投与を行い、さらにタングステン電極を用いて電気刺激を与えることでGCaMP6発現ベクターの導入を行った。注入条件や刺激条件などを様々に変化させたが、いずれの条件においてもGCaMP6の発現効率は低かった。成熟動物では、核膜孔の透過には選択的なしくみが必要になるとの報告がある。一方、電気穿孔法で導入された遺伝子は拡散により核膜孔を透過するため、成熟動物での透過効率は低いことが予想される。本研究では成熟動物を用いていることから、このことが低い遺伝子発現効率の原因である可能性があり、ウイルスベクターを用いての遺伝子導入が必要であると考えられた。従って、GFPを発現するアデノ随伴ウイルスベクターを注入したところ、聴覚神経核にGFPの発現が認められた。さらに、脳定位的にGRINレンズを挿入し、内視鏡観察を行なったところ、GFPの信号が認められた。今後は、GCaMP6を発現するウイルスベクターでのCaイメージングを試みるとともに、GCaMP6と膜移行型蛍光タンパク質(pal RFP)を発現するウイルスベクターを作成し、解析を進める予定である。
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