研究課題/領域番号 |
17K19450
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
|
研究分担者 |
河野 崇 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (90447350)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 聴覚 / 周波数 / チューニング |
研究実績の概要 |
危険の察知や配偶者候補・競合相手の発する求愛歌の識別など、多くの動物は音を用いて周囲の状況を判断し、自身の生存や生殖につなげる。本研究は、このような音の認識の最初の段階である、音の高さの弁別を担うメカニズムの一種類と考えられている、聴感覚細胞の「電気的チューニング」の分子機構を、キイロショウジョウバエをモデルにして解明することを目的とする。 ショウジョウバエの聴覚器には、異なる種類の刺激に反応する5種類の感覚細胞サブグループが存在する。まず、それらが、どの様な組み合わせで、聴覚器内部の振動検知ユニットである「scolopidium」に含まれるかを解析した。過去の知見により、個々のscolopidiumには2個の感覚細胞が含まれることが示されている。そこで、分子遺伝学的手法を用いて各感覚細胞サブグループだけを標識する、という方法により、個々のscolopidium内部に含まれる各感覚細胞サブグループの個数を大まかに決定した。 次に、脊椎動物において聴感覚細胞の「電気的チューニング」の分子機構を形成すると想定されているBKチャネルが、実際にショウジョウバエの聴覚器においても発現しているかを解析した。分子遺伝学的手法を用いて、ショウジョウバエにおいてBKチャネルをコードするslowpoke遺伝子の発現を調べたところ、多くの聴感覚細胞において陽性シグナルが観察された。今後は、これらBKチャネルの聴覚受容における機能を解析する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を進めるにあたって必要となる、いくつかの予備実験を進めた。まず、聴覚器内部にある感覚細胞がどのように組み合わさって聴覚器全体を構成しているか、という、本研究を進めるにあたって基礎的な知見を得るための解析を行った。この解析に必要な抗体染色法の試行錯誤を行い、再現性よく解析できるための方法論を確立することができた。具体的には、最適なタンパク質マーカーの選定、マーカーを発現させるためのショウジョウバエ系統の選別、染色した触角試料の撮影方法の確立を進めた。この方法を用いて実際に解析を実施し、scolopidium内部の各サブグループの割合の同定を進めることができた。 次に、「電気的チューニング」の分子機構モデルの中核を成すBKチャネルについて、未だ解析されていなかった、聴感覚細胞での発現を調べた。神経細胞を標識するElav抗体と、BKチャネルをコードするslowpokeの発現を模倣した蛍光マーカータンパク質を標識する抗体を用いて聴覚器の抗体染色を行なった。その結果、多くの聴感覚細胞での発現が確認できた。この結果は、「電気的チューニング」にBKチャネルが関わる、という、脊椎動物において提唱されているモデルによく合致しており、ショウジョウバエでも同様のメカニズムが機能している可能性が示された。 今年度は研究計画に沿った以上の結果を得ることができた。よって、本研究課題は順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
聴感覚細胞で固有の周波数選択性は、カルシウム依存性カリウムチャネル(BKチャネル)を形成するサブユニット群(α、β)の発現量と発現パターンの制御により獲得される、という脊椎動物で提案されている仮説に基づき、ショウジョウバエにおけるBKチャネルの発現抑制効果の解析を行う。BKチャネルを形成するSlowpokeや、その機能制御に関わる結合タンパク質Slobの発現抑制が可能なUAS-RNAi系統をストックセンターから入手し、それを用いて全聴感覚細胞や各細胞集団で選択的に抑制する。これら個体群を用いて音に対する神経応答や応答行動などの聴覚機能を体系的に解析し、聴覚機能がどのように変化しているかを探る。聴覚機能への関与が確認された遺伝子については、どのスプライスバリアントが発現しているのかを解析する。ショウジョウバエにおいては、Slowpokeでは23種類、Slobは11種類のバリアントが知られている。これらのバリアントがどのような組み合わせで各細胞集団に発現しているかを解析する。 また、、聴覚器内部の振動検知ユニットである「scolopidium」に含まれる複数の感覚細胞が、互いにどのように活動性に影響を与えるかの解析も進める。個々の感覚細胞の応答性を抑制した個体を分子遺伝学を用いて作成し、相手方の感覚細胞の応答性を、カルシウムイメージング法を用いて解析する。以上の結果を踏まえて、作成中のイオンコンダクタンスモデルのパラメータを調整する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験補助をお願いする技術補佐員の採用を検討したが、適任者が見つからずに雇用しなかったため。
|