研究実績の概要 |
線虫Caenorhabditis elegansは最もシンプルな神経ネットワークを持つモデル生物であり、302個のニューロンと約7000個のニューロン間結合を持っているが、その機能はいまだよくわかっていない。そこで我々は、各ニューロンが行動に与える機能を網羅的にアノテーションするための新規方法論―機能的セロミクス―を開発してきた。具体的には、Cre/loxシステムとオプトジェネティクスを応用し、ひとつひとつのニューロンに対して光作動性チャネルであるオプシンを確率的に標識できる技術を開発した。この技術を用いて、ランダムなパターンでオプシンが標識された線虫ライブラリを構築し、そのライブラリに対して光照射下で行動実験を行い、特徴的な行動を見せた線虫を単離し、その線虫のオプシン標識パターンを調べることで、ニューロンの機能を1細胞レベルで仮説フリーにアノテーションすることができる。我々は、この方法論を線虫の産卵行動に適用し、ひとつのニューロンの活性化が産卵行動の十分条件であることを示した(Scientific Reports, 8, 10380, 2018)。さらに、線虫のロコモーションを制御する神経ネットワークの動作モデルを構築するために、本システムの適用を試みた。具体的には、線虫ライブラリのロコモーションをトラッキングしつつ解析するシステムを構築し、機能的セロミクス解析を行い、ロコモーションモチーフと神経ネットワークの関係の解析を進めている。機能的セロミクスをさまざまな行動系に適用することで、普遍的な脳の計算メカニズムを理解できるようになる期待される。
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