研究課題/領域番号 |
17K19453
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
見学 美根子 京都大学, 高等研究院, 教授 (10303801)
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研究分担者 |
亀井 謙一郎 京都大学, 高等研究院, 准教授 (00588262)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 軸索ガイダンス / ナノパターン / メカノバイオロジー / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
中枢神経系の神経回路形成過程で、ニューロンの軸索は標的細胞や周辺細胞から発せられる誘引・忌避分子の誘導を受けて遠隔の標的に投射することが明らかになっている。一方脳組織の構造的性質や形態形成運動に伴う引張・圧縮などの応力分布の動的変化も軸索伸長に強く影響すると考えられる。本研究では、小脳顆粒細胞が双極性の軸索を小脳長軸の左右両方向に軸索伸長する現象が組織内の物理的刺激による軸索ガイダンス機構によるものと仮説を立て検証を行う。 平成29年度はナノインプリント法を用いて様々な幅・深さのline & spaceを加工した培養基質を作成し、小脳顆粒細胞と海馬錐体ニューロンを分散培養して分化させ、軸索走行を観察した。その結果顆粒細胞は溝の幅に関わらず平行に軸索を伸長したが、錐体ニューロンは溝の幅により平行または垂直に軸索伸長することが明らかになった。高解像ライブ観察技術を用いて成長円錐上の接着複合体の大きさと分布を解析したところ、基質の屈折率の問題で蛍光観察ができないことがわかった。そこで走査電子顕微鏡解析を行い、成長円錐の形態を詳細に解析した結果、成長円錐の糸状仮足がパターンの山に沿って伸びていることがわかったが、アクチン骨格配向には極性は見られなかった。 小脳形態形成運動に伴う組織伸展の機械的刺激が軸索伸長に及ぼす影響を検証するため、小脳顆粒細胞を弾性膜(シリコーンシート)上に培養して引張刺激を負荷し、双極性軸索の伸長方向に及ぼす影響を解析した。強い引張刺激を加えても軸索伸長方向に有意な変化は見られず、組織伸展による軸索ガイダンス制御の可能性は支持されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軸索ガイダンスにおける組織の物理的環境の影響を検証するため、ナノインプリント加工による異方性マイクロパターン培養基質の作成、および弾性膜培養基質に引張負荷しながらリアルタイム観察する実験系を立ち上げ、基質の形態および機械的刺激の影響を解析する計画を予定通りに遂行した。ガラスの屈折率に近い基質を選択したが、マイクロパターンエッチングのために厚みがあり、蛍光観察には不向きであるという問題が生じたが、専門家に協力を仰いで走査電顕により超微形態を観察する実験系を新たに構築した。以上のように計画は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
作成したナノインプリント基質が蛍光観察できないため、樹脂の種類を変えて問題を解決できるか検討する。現在まで機械刺激による軸索ガイダンスは見られていないが、さらに条件検討を行い評価する。軸索ガイダンスに有効な物理的環境が特定されたら、伸長する成長円錐におけるCa2+シグナルの発生を検証し、刺激の向きとの相関を明らかにする。相関が見られた場合、Ca2+シグナル発生の分子機構を、特に軸索伸長への関与が示されているメカノセンサーTRPチャネルに注目して明らかにする。以上の実験により機械的刺激による軸索ガイダンスの分子機構と生理的意義を明らかにする
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に異方性マイクロパターン基質上のニューロンを用い、蛍光免疫法で多くの成長円錐を観察する予定であったが、基質の屈折率が問題で観察を行えなかったため、消耗品の使用が予定より抑えられた。本年度は樹脂の種類を変えて問題を解決する予定である。
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