研究課題
逆行性輸送の性質を利用したウィルスベクターは、脳内における神経細胞の連絡様式やその生理機能を研究するために重要な研究用ツールである。我々の研究グループは高効率な逆行性の遺伝子導入を示すレンチウィルスベクターとして、高頻度逆行性遺伝子導入 (HiRet)と神経細胞特異的逆行性遺伝子導入(NeuRet) ベクターを開発した。本ベクターの神経細胞への導入に関する詳細なメカニズムを解明するためには、ベクター受容体の同定は必須の課題である。本研究では、HiRet/ NeuRetベクターに関連する受容体の探索に取り組む。本年度は、第一に、候補分子に対するノックアウトマウスを利用し、伝子導入効率を野生型マウスと比較した。中枢神経で発現するnAChRαサブユニットとして、特に、成獣期に発現の高いα4とα7遺伝子のノックアウトマウスを利用し、ガングリオシドの合成に関わるり、前駆体のラクトセラミドをGM3に変換するGM3合成酵素のノックアウト(aとbシリーズのガングリオシドを欠損する)およびラクトセラミドとGM3/GD3にNアセチルガラクトサミンを転移するGM2/GD2合成酵素のノックアウト(複合型ガングリオシドを欠損する)を利用した。これらのノックアウトマウスの線条体に、HiRet/NeuRetベクターを注入し、線条体へ入力する皮質と視床神経核への遺伝子導入を観察した。いづれのノックアウトマウスにおいても、コントロールマウスと比較して、逆行性遺伝子導入の頻度に顕著な変化は認められなかった。これらの結果は、nAChRαサブユニット(α4とα7)およびガングリオシド合成酵素(GM3とGM2/GD2合成酵素)は、本ベクターの受容体ではないことが示唆された。今後は、他の候補遺伝子のスクリーニングを行う計画である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、nAChRαサブユニット(α4とα7)およびガングリオシド合成酵素(GM3とGM2/GD2合成酵素)のそれぞれのノックアウトマウスを利用して、ベクターの導入効率をコントロールマウスと比較することができた。結果は、いづれのノックアウトマウスにおいても、コントロールと同様の導入効率が認められ、これらの4種類の遺伝子はベクター受容体としての候補ではないことが示唆されたが、今後、他の候補分子について検討を進めるとともに、このベクターの受容体の性質を解析していく予定である。
第一に、他の受容体候補である、神経接着因子(NCAM)および低親和性神経栄養因子受容体(p75NTR)のノックアウトマウスを利用して、本年度と同様に、これらのノックアウトマウスの線条体に、HiRet/NeuRetベクターを注入し、線条体へ入力する皮質と視床神経核への遺伝子導入を観察し、コントロールマウスへの導入と比較検討する。第二に、in vitroの研究から、これらのベクターの受容体は糖タンパク質(特に糖鎖領域)である可能性が示唆されたことから、この可能性をin vivoでテストする、具体的には、糖タンパク質の糖鎖を切断するさまざまな酵素を脳内に投与し、その領域へさらにベクターを注入することにより、糖鎖切断によってベクター導入が影響するか否かについてテストする。ベクター導入に影響する糖鎖切断のパターンからベクター受容体の候補を絞り込む。
本年度行った4種類のノックアウトマウスへの遺伝子導入に顕著な変化が認められなかったため、尾ノ後、引き続生きお来ぬあ予定であった生化学解析の予算を来年度の使用に繰り越すこととする。糖鎖解析などの生化学解析に利用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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