研究課題/領域番号 |
17K19462
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
水関 健司 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80344448)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 大規模同時記録法 / 光遺伝学 / 入出力演算 / 投射先 / 相互相関解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、大規模同時記録法を用いて、自由に行動する動物において単一細胞の入出力演算を網羅的に検出する方法を開発することを目指した。さらに、大規模同時記録により多数の神経細胞の発火活動を一斉に計測しながら光遺伝学的手法を援用して、自由に行動する動物の脳において、記録している神経細胞の出力先の脳領域を同定する新規技術を開発することを目標とした。 本年度は、最大256チャネルの多点電極シリコンプローブを用いて、自由に行動する動物から100個程度の神経細胞を同時記録できる方法を確立した。細胞間のシナプス結合の有無の検出には、シナプス前細胞からの入力がシナプス後細胞を発火させるという神経細胞の基本的な性質を利用した。すなわち、同時記録している細胞の全ての組み合わせにつき、相互相関解析を行うことによって細胞間のシナプス結合を網羅的に同定する系を立ち上げた。この実験系をラットの海馬CA3と海馬台に適用できることを確かめた。 さらに、大規模同時記録法に光遺伝学を組み合わせて、記録している多数の神経細胞を投射先によって分類する方法を開発した。具体的には、ウイルスベクターを用いて海馬台の神経細胞にチャネルロドプシンを発現させ、各投射先の脳領域に局所的に光を照射することにより、その領域に投射してチャネルロドプシンを発現している神経細胞の軸索を脱分極させてスパイクを生じさせる。軸索で生じ、短い潜時(<15ミリ秒)と非常に小さなジター(<1ミリ秒)で逆行性に細胞体へ伝わるスパイクを海馬台にて検出することで、自由に行動する動物において神経細胞を投射先によって分類する方法をほぼ確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの技術開発を目指した。すなわち、(1)「大規模同時記録法を用いて、自由に行動する動物において単一細胞の入出力演算を網羅的に検出する技術」、(2)「大規模同時記録により多数の神経細胞の発火活動を一斉に計測しながら光遺伝学的手法を援用して、自由に行動する動物の脳において、記録している神経細胞の出力先の脳領域を同定する技術」、の2つである。 本年度は、この2つの技術を、おおむね予想していた範囲内の効率でほぼ確立できたため、「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に立ち上げた2つの技術のさらなる効率化を目指し、それぞれの技術を用いて海馬と海馬台における情報処理機構を明らかにする。 「大規模同時記録法を用いて、自由に行動する動物において単一細胞の入出力演算を網羅的に検出する技術」では、シナプスを同定できる細胞の組み合わせは記録している細胞数の二乗である。そこで、従来のシリコンプローブよりもさらに記録部位の間隔を小さくして高密度にすることで、さらに多くの細胞を同時記録することを目指す。さらにこの技術を海馬と海馬台に適用し、記録している神経細胞同士のシナプス入力を網羅的に検出した上でラットに場所課題を行わせ、空間認知に必要な場所細胞、頭方向細胞、速度細胞などの受容野がどのような入出力演算で生じるのかを明らかにする。 「大規模同時記録により多数の神経細胞の発火活動を一斉に計測しながら光遺伝学的手法を援用して、自由に行動する動物の脳において、記録している神経細胞の出力先の脳領域を同定する技術」では、現在のところ投射先を同定するのに時間がかかりすぎる。そこで、各投射先脳領域へ投射していると思われる細胞の発火タイミングを自動的に検出し、そのタイミングでその投射先脳領域を光刺激することにより、投射先同定にかかる時間を大幅に減らす。さらに、開発した技術を海馬台に適用する。海馬台の個々の神経細胞は、数ある投射先のうちごく少数の脳領域にのみ投射する。このことは海馬台が投射先によって特有の情報を伝達している可能性を示唆しているが、海馬台からどのような情報がどの脳領域へ送られているのかは不明である。そこで、同時記録している海馬台の神経細胞を開発した技術で投射先によって分類する。その上で様々な課題をラットに行わせ、個々の神経細胞がどのような情報を表現しているかを調べることにより、海馬台における投射先特異的な情報処理機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は学会参加などで予定していた旅費を節約することができたために、実支出額が所要額を下回った。このために次年度に使用できるようになった予算は、次年度の研究推進のために消耗品を購入することで有効活用する。具体的には電気生理学的記録に必要な光ファイバーや電極の購入に充てる予定である。
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