前年度は、マウスにおける社会的敗北ストレス課題において海馬神経新生エンハンサーによるトラウマ記憶忘却促進とPTSD様不安行動の改善が観察された。そこで、今年度は、薬物依存症改善方法提案を目的として、海馬神経新生エンハンサーによる忘却効果を利用して、マウスにおける薬物に対する快情動記憶の忘却を誘導できないか検討した。海馬神経新生エンハンサーとしてNMDA受容体非競合的阻害剤メマンチンを用い、薬剤依存症モデルとしてニコチン誘導性の条件づけ場所嗜好性課題を用いた。まず、黒箱と白箱を自由に往来できる装置を用いて、装置に対する馴化学習を行った。続いて、ニコチン投与後白箱に滞在させて、ニコチン依存性場所嗜好性記憶を形成させた。その後、メマンチンを週1回計4回投与した結果、メマンチン投与群では、場所嗜好性記憶の忘却が認められた。従って、神経新生エンハンサーによる忘却効果により、薬物依存的記憶の忘却が促進されることが初めて示唆され、新たな視点からの薬物依存症改善策開発の可能性が示された。 光遺伝学的手法を用いた病態改善の試みとして、海馬あるいは前頭前野にチャネルロドプシン(ChR2)あるいはアーキロドプシンT (ArcT)を発現させて、トラウマ記憶操作による病態改善を試み、恐怖記憶想起時に海馬を不活性化することで恐怖記憶が減退することを示し、トラウマ記憶操作が可能とであることを示唆した。さらに、前年度に引き続き、社会的敗北ストレス後に活性化される脳部位として、海馬や前頭前野などを同定し、c-fosタグシステムを用いてこれら領域におけるトラウマ記憶エングラム細胞をラベルする条件を見出した。その後、このトラウマエングラムの不活性化がトラウマ記憶並びに PTSD様病態に与える影響の解析を試みた。また、アルコール依存モデルの確立を試み、アルコール依存に対する海馬神経新生エンハンサーの効果を解析した。
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