研究課題
神経細胞での新規なタンパク質合成は、神経機能や情動および記憶などの精神機能が関わる行動にも深く関与することが示唆されているが、その詳細にはいまだ不明な点が多い。平成30年度では、平成29年度に開発した新たなmRNAおよびtRNA塩基配列技術、およびバイオインフォマティクスのツールを用いて、神経細胞の翻訳状態の解析をリボソームに結合したmRNAだけでなくtRNAからも詳細に明らかにすることを目指した。平成30年度では、生きたマウスを用いて、特異的にtRNAの遺伝子発現や実際の翻訳に使われているtRNAを調べるための様々な実験手法の開発を引き続き行った。また、tRNAの各種修飾や発現量を網羅的かつ、定量的に決定するためのバイオインフォマティクスのツールの改良をさらに進めた。これらの新規な手法を用いて、正常マウスおよび精神・神経変性疾患モデルなどのヒト疾患モデルマウスの翻訳解析を行った。その結果、性質が異なるtRNAを見出し、また、特徴的な翻訳のリズムを示す遺伝子の一群を、定量的な翻訳解析から見出した。さらには、翻訳のリズムに関わるような特徴的な均一性および不均一性を示す遺伝子の一群を見出した。それらの分子メカニズムを明らかにするために様々なデータ解析を進めたところ、遺伝子の本来持つ性質や遺伝子座などの特徴がそれらの翻訳リズムの性質に相関することを見出した。以上から、各遺伝子には、このような翻訳リズムの情報が潜在的に取り込まれていることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
新たな翻訳技術およびバイオインフォマティクスのツールを新規に開発、必要に応じて適宜改良を行うことで、神経細胞やマウス脳を用いたtRNAの翻訳解析を進めているため。
H29年度およびH30年度に作成した実験系およびバイオインフォマティクスのツールを用いて、様々な条件前後でかつ神経細胞のコンパートメントでの翻訳解析や、生きたマウスを用いて行動に連結したmRNA/tRNA翻訳解析をさらに進める。さらには、mRNAコドンとtRNAアンチコドンが一致していないことに着目した翻訳解析を進める。
今年度後半は様々な神経細胞およびマウス脳のサンプルからライブラリー作成をRNAが分解しないうちに行うことが得策と考えて先に行い、一部の配列解析を次年度に回したため、当初の予定ほどは配列解析を行わなかったため。また、次年度は、今年度に作成したライブラリーも含めて、多くの配列解析を行い、本研究を完了させる計画である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Biol. Psychiatry
巻: 84 ページ: 509-521
10.1016/j.biopsych.2018.03.008
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180614_1/