研究課題/領域番号 |
17K19471
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
根本 直人 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60509727)
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研究分担者 |
戸澤 譲 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90363267)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 進化分子工学 / cDNA display / 膜タンパク質 / GPCR |
研究実績の概要 |
1997年に世界に先駆けて進化工学的手法であるファージディスプレイの試験管内版“in vitro virus”法をライブラリーサイズを保ちつつ安定化し、様々な選択条件下でスクリーニングを可能にするcDNA ディスプレイ法を開発した。さらに改良を加えてスクリーニング対象を従来不可能であった生細胞やRNAといった不安定な分子にまで拡張することが可能となった。また、このようなcDNA ディスプレイ技術を応用しわれわれは従来では不可能と考えられた低分子化合物に結合するペプチドアプタマーの試験管内淘汰実験に成功した。このようにcDNAディスプレイ技術の完成度が高まり様々な機能ペプチドの取得が可能になってきている。一方、無細胞タンパク質合成は年々技術的改良が加えられ、近年では人工二重脂質膜(リポソーム)に膜タンパク質を発現する技術が開発されてきているさらに、これを利用した膜タンパク質の機能解析もできるようになってきている。本研究ではcDNAディスプレイ技術によるペプチドリガンドスクリーニング技術と標的となる無細胞タンパク質合成による膜タンパク質合成技術を融合させ、従来から主要な創薬標的にも関わらず抗体が作製しにくいGタンパク質共役受容体(GPCR)等の膜タンパク質に特異的に結合する人工ペプチドリガンドの創製を目指した。 当初、膜タンパク質を通常のリポソームに組み込むことを考えていたが、リポソームの粒径を1~10μm以内に揃える技術がないため、二重脂質膜を膜骨格タンパク質(Membrane Scaffold Proteins:MSP)のベルトによって囲み、天然に近いリン脂質二重膜構造をとるナノ構造体を形成するナノディスクを利用することとした。ナノディスクの合成には成功したため、今後はこれを利用してスクリーニングを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では正しい構造を有する標的分子を提示すること、そして、アゴニストあるいはアンタゴニストとしてリガンド候補を探索するために適切な数量の母集団を準備すること、さらには有望なリガンド候補を取りこぼし無く同定することの3点に集約される。 cDNA display法および機能型膜タンパク質の完全インビトロ再構成系の二つの独自技術を融合し、従来の系を凌駕する効率的な膜タンパク質に対する作用ペプチド(アゴニストあるいはアンタゴニスト)の探索システムの基盤技術の構築を進め、代表的な膜受容体に特異的かつ高親和性の機能性ペプチドリガンド(ペプチドアプタマー)の取得をする。当初、膜タンパク質を通常のリポソームに組み込むことを考えていたが、1)組み込んだ膜タンパク質の機能アッセイが難しい 2)膜タンパク質のリポソームの粒径を1~10μm以内に揃える技術がない(リポソーム粒径を一定に大きさに揃えることができないとセルソーターでの選択が不可能)ため、二重脂質膜を膜骨格タンパク質(Membrane Scaffold Proteins:MSP)のベルトによって囲み、天然に近いリン脂質二重膜構造をとるナノ構造体を形成するナノディスクを利用することとした。共同研究者の戸澤はすでにナノディスク技術を保有しており、複数の膜タンパク質のナノディスクへの埋め込みに成功している。今回、膜タンパク質としては活性評価が容易なロドプシンをモデル膜タンパク質とした。そして、MSPの大量合成とロドプシンのナノディスクへの組み込みを確認した。また、複数の膜タンパク質のナノディスクへの埋め込みを試している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
MSPにはHisタグが付いており、これによりNi-NTAビーズ表面に固定化する。当初の予定を変更してナノディスクを介してNi-NTAビーズ上に膜タンパク質を固定化する形となる。このため、膜タンパク質の膜外と膜内の両方のドメインに対してスクリーニングされることになる。このため、ナノディスクに対するスクリーニングの後で、酵母等で膜タンパク質を細胞上に発現し、これに対してスクリーニングをする予定である。現在、当初の予定通りMuscarinic acetylcholine receptor M2のベクターを合成し、これをナノディスクに埋め込む準備をしているところである。これが完成次第、セルソーターを用いたスクリーニングを行い、さらに次世代シーケンサーを用いて配列を解析、候補分子の絞り込みを行っていく。候補分子は無細胞翻訳系で合成し、分子間相互作用解析装置でその親和性を解析する。
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