研究課題/領域番号 |
17K19477
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 徹 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (40599172)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 創薬化学 |
研究実績の概要 |
本研究は,生体内の酵素活性を直接観察することを可能とする研究ツールの開発を目的として,特に,タンパク質のアミノ酸側鎖の化学修飾によってその機能を改変する翻訳後修飾を担う種々の酵素群の活性を,タンパク質,プローブペアにより検出するcoupled assayの仕組みの構築を目指しておこなわれてきた. 研究計画に記載のとおり,ウィルス由来の高選択的プロテアーゼであるTEVプロテアーゼの基質認識能を精査し,これを用いた新たなcoupled assayの仕組みについて立ち上げをおこなった.また,これと併せて,当初の計画では予定していなかった新たな側面からの研究展開として,プロテアーゼを利用したisoaspartyl基のメチル化反応の可視化プローブを細胞内補酵素の検出系に利用することで,広範なメチル基転移酵素の活性を評価することができる新たなcoupled assay系を立ち上げることに成功した.加えて,この検出系を利用して,細胞内のメチル化ポテンシャルの変化を生細胞レベルで検出する実験系を構築し,これを用いた生細胞スクリーニング系の立ち上げまでを達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウィルス由来の高選択的プロテアーゼであるTEVプロテアーゼの基質構造を精査するペプチドライブラリを構築し,その構造活性相関,特に,生体内で重要性を有する翻訳後修飾の可視化に資する基質構造修飾の可能性について明らかにすることに成功した. 研究計画に記載のとおり,isoaspartyl基のメチル化反応をcoupled assayによって検出する蛍光プローブについて,構造最適化を実施し,従来よりも1オーダー程度高いS/N比をもってこれを検出することができる蛍光プローブの開発を達成した.特に,この蛍光プローブがメチル化反応の可視化を高選択的に可能とするという性質に基づき,メチル化反応の補酵素として用いられるS-adenosylmethionine(SAM)の量変化を検出する実験系へとこれを転用し,その開発を達成した.近年の研究から,細胞内のメチル化反応の反応性は,その補酵素であるSAM濃度によってグローバルな制御を受けている可能性が示唆されており,SAM濃度変化は恒常性の維持,疾患の成り立ちにおいて重要な役割を果たすエピジェネティックな制御因子のひとつとして位置づけられている.本研究を通じて,ペプチド性のプローブを細胞内に導入することが困難であるという新たな課題が見出され,この点を克服することは困難であったが,代わりに,細胞を可溶化すると同時に,ここで起こる反応を可視化する実験系をもって細胞内の補酵素の検出を可能とすることに成功し,実際に,細胞の状態の変化に応じたメチル化ポテンシャルの変動をハイスループットに評価することが可能であることが確かめられた.一連のアッセイ系の確立とその応用について,現在論文投稿準備中となっている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究を通じて,ペプチド性のプローブと選択的プロテアーゼを利用したcoupled assayの仕組みについて確立することを達成したが,開発した多くのペプチド性プローブについて,細胞膜透過性を実現することが当初の予定以上に困難であることが明らかとなった.この点については,細胞の可溶化と併せることで準生理的な条件下での解析を可能としたが,より生理的な条件での変化をモニターするプローブ群を安定的に開発するためには,更なるプローブ群の開発による知見の蓄積が望まれる.一方で,本研究室を通じて,各種翻訳後修飾の可視化を可能とするアッセイ系の開発をおこなっただけでなく,これを制御する化合物を取得するためのスクリーニング系を立ち上げることまでを達成し,特に,表現型の制御において重要な役割を果たすヒストンのメチル化状態を制御することが期待される薬剤候補の取得に成功した.これらの機能を精査すると共に,構造展開をおこなって,疾患の理解と制御を可能とするケミカルバイオロジーの研究ツールとして発展させていくことが強く望まれる.
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