研究課題/領域番号 |
17K19479
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 求 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20243264)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 触媒 / アシル化 / ヒストン / 染色体 |
研究実績の概要 |
生命は生体分子と化学反応のネットワークである。生体はDNAやタンパク質といった生体分子によって構成されるが、その機能は生体分子を基質とする動的な化学反応によって調節され、生命全体としての恒常性が維持されている。生体内の化学反応には酵素が介在しており、酵素の機能異常、あるいはそれにより引き起こされる生体内化学反応の異常が、生体恒常性の損失や疾患に密接に関与している。以上の背景を踏まえ本研究の目的は、遺伝子転写を正に制御する翻訳後修飾であるヒストンタンパク質のリジンアセチル化に焦点を当て、生体内での人工化学触媒反応によって酵素非依存的にヒストンアセチル化を導入し、それによりがん抑制遺伝子を含む遺伝子転写を亢進して、抗がん作用を発現することを目的とする。本法はその薬効の発現を内在性酵素に依存しないため、既存の脱アセチル化酵素阻害剤では効果の無い、アセチル基転移酵素の遺伝的欠損や阻害剤耐性を有するがん細胞に対しても有効性を示すと期待される。 本年度は、内在性アセチルドナーであるアセチルCoAを効率よく活性化できる世界初の化学触媒DSHを開発し、これをヒストン結合分子であるLANAペプチドに繋いだLANA-DSHが、酵素非依存的にヒストンのリジン残基選択的なアセチル化を亢進し、染色体の高次構造と物理的性質を変化させることを見出した。すなわち、人工触媒が促進する化学反応により生体分子の性質を変えて、転写が進みやすい形へと導くことに、試験管内で成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
試験管内ではあるが、内在性のクロマチンを、様々な夾雑物が存在する環境下でヒストンの残基を高度に選択して多様なアシル化を人工的に導入できる触媒を見い出すことができた、これは世界に類を見ない成果であり、あらゆる面で今後の生細胞内での人工エピジェネティクスの基盤となるツールである。
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今後の研究の推進方策 |
生細胞内でヒストンの残基選択的アシル化を促進する化学触媒の開発をおこなう。そのためには、触媒の細胞膜透過性と細胞内での安定性を改善させる必要がある。薬物送達の概念やリガンドの低分子化などを中心に、研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より前倒しで研究が進捗しており、次年度必要となる細胞内反応用の生物系の薬品類を購入するために使用する。
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