研究課題/領域番号 |
17K19480
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富田 泰輔 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (30292957)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 神経変性疾患 / 凝集タンパク質 / 光反応 / タウ / 脳神経疾患 |
研究実績の概要 |
本研究においては、様々な神経変性疾患における病理学的特徴の一つである、異常に線維化したタンパク質が細胞内に蓄積する細胞内凝集体の「細胞間伝播」機構を解明する目的で、光酸素化触媒による細胞内凝集体動態の時空間的な制御法の確立とその制御によって引き起こされる細胞応答を検証することを目的に研究を進めている。当該年度においては、アルツハイマー病発症関連分子アミロイドβタンパク質の酸素化に用いられた光酸素化触媒が、他のタンパク質に適用できるかどうかを検証した。具体的には、アルツハイマー病や前頭側頭葉変性症において細胞質に凝集、蓄積し神経変性に深く関わることが示唆されているタウについて解析を行った。リコンビナントタウタンパク質を取得し、その凝集プロセスおよび凝集を惹起するシード能に対して検討した結果、光酸素化によってタウのこれらの能力が著減することが明らかとなった。またシードをプロテイントランスフェクションによって導入し細胞質内にタウ凝集体を保持する培養細胞を樹立し、その細胞ライゼートに対して光酸素化反応を行った結果、凝集しサルコシル不溶となっていたタウが可溶性画分に回収されることが明らかとなり、in vitroおよび細胞系で光酸素化が細胞内凝集体構成タンパク質の凝集能を低下させることが示された。加えて、タウトランスジェニックマウスPS19脳ライゼートを用いた伝播病態解析実験を行った。タウ異常蓄積病態が観察される9ヶ月齢マウス由来脳ライゼートを超遠心によって分離して沈渣画分に含まれる高分子量タウが初代培養神経細胞におけるタウ凝集を惹起することが追試できた。一方、タウの異常蓄積を認めない若齢マウス脳ライゼートに含まれる高分子量タウについてはこれらの効果は認められなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においてはこれまでAβの光酸素化反応に用いられてきた触媒について、タウ凝集体の酸素化を示すかどうか、その酸素化によってタウタンパク質の凝集性がin vitro、培養細胞系でどのように変化するかを確認することができた。また光酸素化触媒の有効性と今後の生物学的解析を進める上で重要なツールとなる、シードトランスフェクションによってタウ凝集体を保有する培養細胞ラインの樹立に成功した。同時にタウトランスジェニックマウスPS19を入手し、その解析を開始している。既報通り、高齢マウスにおいてタウの異常蓄積病態が観察されること、またその脳ライゼートが初代培養神経細胞におけるタウ凝集を惹起することが追試できたことから、伝播に関わるタウ分子病態の解析に有用であることも確認した。これらの成果は本研究目指している「細胞間伝播」分子機構の解明に際して光触媒が正しく利活用できることの基盤技術であり、その成果は重要なものであるといって良い。またタウの異常凝集・蓄積は神経変性と連関すると考えられており、タウの凝集阻害法の確立はアルツハイマー病のみならず様々な神経変性疾患の治療・予防法の開発につながることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
光触媒が分子レベルで凝集したタウの酸素化反応を惹起し、その結果として凝集能そのもの、もしくは凝集誘導(シード)能を減弱させることを生化学的な解析から明らかにすることができた。今後はこの光触媒反応を培養中の培養細胞モデル、もしくはタウ蓄積を示すタウトランスジェニックマウスに利用することで、光酸素化反応がin vivoで有用なものかどうかについて検証する。具体的には、シードトランスフェクションにより樹立した細胞質タウ凝集体保有培養細胞に対して、光触媒を細胞質にインジェクションした上で部位特異的に光酸素化反応を惹起した上でライブイメージング観察に供し、細胞質内におけるタウの異常凝集および蓄積が生じるタイムコースを検討する。また細胞内オルガネラとの関係性についても詳細に解析を進める。また光酸素化触媒を用いて時空間的に細胞内凝集体動態を制御した細胞のライゼートを用い、それぞれの制御条件下における伝播能を検証する。伝播されたか否かについては、ホスト側の細胞におけるタンパク質凝集を生化学的、もしくは凝集特異的なプローブやイメージング技術を利用して解析する。また将来的な細胞間伝播を標的とした疾患治療戦略を見据え、細胞外に放出された細胞間伝播の原因となる凝集のシードタンパク質を光酸素化触媒によって酸素化することにより、その伝播能を制御できるかどうかについても検討する。
|