本研究においては、様々な神経変性疾患における病理学的特徴の一つである、異常に線維化したタンパク質が細胞内に蓄積する細胞内凝集体の「細胞間伝播」機構を解明する目的で、光酸素化触媒による細胞内凝集体動態の時空間的な制御法の確立とその制御によって引き起こされる細胞応答を検証することを目的に研究を進めてきた。これまでにアルツハイマー病発症関連分子タウの酸素化に用いられた光酸素化触媒を用いた光反応が、リコンビナントタウタンパク質の凝集プロセスを抑制することを見出していた。光酸素化触媒がどの凝集プロセスに影響しているかを検討するため、線維化したタウをソニケーションによって破砕したシードに対して、光酸素化反応を行ったシードはタウ凝集能を失っていたことから、モノマーではなく小さな凝集体に酸素化反応を起こして最終的に凝集反応を抑制していると考えられた。そこでこの酸素化シードをプロテイントランスフェクションによってタウ恒常性発現細胞に導入した結果、やはりin vitroと同様に凝集体形成能が失われていた。すなわち、細胞外に放出されタウ病態伝播を引き起こすシードタウを酸素化することで、タウオパチーにおけるタウ病態伝播を抑制させることが可能と考えられた。
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