研究実績の概要 |
核酸とアミノ酸を含むサケ白子抽出物を正常マウスに摂取させた時の記憶学習能への影響を調べた。サケ白子抽出物を2.5%含む餌を14日間与えたのち、新規物体認識試験(NORT)および空間認識試験(SRT)を行い、既知および新規物体に対する探索時間を調べたところ、普通餌(対照群)においては既知物体と新規物体の探索時間に差がなかった一方、サケ白子抽出物を与えた群では新規物体の探索時間が有意に延長したことから、サケ白子抽出物に記憶学習を高める成分が含まれることが示された。その成分を明らかとするため、サケ白子抽出物に含まれる核酸成分とアミノ酸成分のみをそれぞれ2.5%含む餌を同様に摂取させたところ、ともに新規物体の探索時間が有意に延長した。したがって、核酸とアミノ酸の両方が記憶学習能を高めることが示唆された。核酸による記憶学習メカニズムを解明する目的で、核酸塩基、ヌクレオシド、デオキシヌクレオシド、デオキシヌクレオチドの合計19種類の核酸化合物の脳海馬中濃度を測定したところ、cytosine, cytidine, deoxycytidineのサケ白子抽出物摂取後の濃度が普通餌と比べて高く、核酸による効果を裏付けた。さらに、海馬における遺伝子発現を検討したところ、摂取開始2日後には、神経幹細胞のマーカーNestin、グリア細胞のマーカーGFAP、ミクログリアのマーカーCD11b、オリゴデンドロサイトのマーカーMBP1, MBP2、未分化細胞のマーカーSOX2の発現が普通餌に比べて有意に高く、4日後には神経細胞のマーカーSynapsin1, βIII tubulinの発現が高い傾向にあった。また海馬由来初代培養神経幹細胞にサケ白子抽出物や核酸成分を添加すると細胞増殖が促進した。したがって、核酸は神経幹細胞の増殖や分化を促進する可能性が示された。
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