髄鞘を形成することで神経伝導速度を高めるオリゴデンドロサイトは脳の白質における主要な構成細胞であり、その変性は認知機能を含む高次脳機能に悪影響を及ぼす。本年度は、はじめに認知機能障害を呈することが知られている炎症性脱髄性中枢神経疾患である多発性硬化症に着目して、脱髄の発生および増悪メカニズムを解析した。その結果、神経炎症・脱髄部位にマクロファージが集まっており、ケモカインであるCXCL2を過剰に産生して好中球をその部位に大量に呼び寄せることで、さらなる神経炎症の増悪を惹起していることを見出した。また、そのマクロファージに発現する活性酸素種感受性のCa2+透過性陽イオンチャネルTRPM2を抑制すると、その増悪が抑制されることを明らかにした。 次に、加齢に伴う認知機能の低下における過剰な脳内炎症の関与と、その脳内炎症を担う細胞種について、免疫細胞に高発現するTRPM2に着目して、12-24ヶ月齢まで飼育した老齢マウスを用いて検討した。行動実験の結果、野生型老齢マウスで観察された認知機能の低下がTRPM2欠損により抑制されることが明らかとなった。免疫組織化学的検討を行ったところ、脳梁でオリゴデンドロサイトと想定されるGSTpi陽性細胞数の減少傾向や、ミクログリア/マクロファージと想定されるIba1陽性細胞数の増加が野生型老齢マウスでは認められたが、TRPM2欠損老齢マウスでは観察されなかった。定量的RT-PCR法を用いて炎症性サイトカイン発現量の変化を解析したところ、野生型老齢マウスではTNFαおよびCCL2のmRNA発現が増大していたが、TRPM2欠損老齢マウスでは変化は認められなかった。以上の結果より、加齢に伴う認知機能の低下や脱髄にTRPM2が関与し、そのメカニズムとしてTRPM2を介したミクログリア/マクロファージの活性化が関与していることが示された。
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