がん抑制遺伝子産物p53は「ゲノムの守護神」と呼ばれ、ゲノムの安定性に重要な役割を果たしている。細胞がDNA損傷等のストレスを受けると、p53は細胞周期停止やDNA修復により細胞の恒常性を維持するが、DNAに対する損傷が大きい場合にはアポトーシスを誘導し、自らの細胞を殺す。しかし、ヒト腫瘍の約半数でp53遺伝子の変異が認められる。さらに、がん治療で用いられる放射線や抗がん剤等は細胞に対してストレスになるためp53の作用によりアポトーシスが誘導されるが、p53に変異をもつがん細胞はp53が正常に機能しないために治療効果が期待できない。そこで、変異型p53の機能を回復させることにより、がん治療への感受性を高める方法は有望ながん治療戦略になると考えられ、さまざまな方法が検討されている。その中でも、2016年にWalerychらは、野生型p53では起きない現象として、変異型p53の機能獲得としてNrf2を介したプロテアソームの転写活性化について報告した。そして、変異型p53を野生型に変換させることにより、がん抑制効果が期待できると考え、「変異型p53を野生型に変換させる化合物」を作用させ、プロテアソームの転写活性化が消失することを示した。したがって、変異型p53の機能を野生型へ転換させる化合物は、がん細胞選択的に増殖抑制作用を示すと考えられる。そこで、変異型p53の機能を修飾し野生型へと転換させる天然資源由来の化合物を探索した。具体的には、正常型p53と175番目のアルギニンがヒスチジンに変異したp53R175Hを用いて、蛍光免疫染色法により評価した。野生型p53を認識する抗体としてPAB1620、変異型p53を認識する抗体としてPAB240を用いた。ポジティブコントロールとしてフェネチルイソチオシアネートやPRIMA-1が報告されているが、再現性を得ることができなかった。
|