研究課題/領域番号 |
17K19499
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
黒川 洵子 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40396982)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 薬理学 / 心臓 / 力学的機能 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
本応募研究計画では、新薬開発で問題となっている抗がん剤の心筋収縮抑制を評価することを将来目標としている。研究目的は、ヒトiPS細胞を利用して、心房筋と心室筋を識別できる高精度さと慢性作用の解析を可能とする非侵襲性を兼ね備えた新規の実験系を開発することである。
昨年度に、長時間測定のための実験環境を整備し、収縮弛緩の速さおよび力の平均値の10日間の変化を10%以内に抑えることに成功した。それを受けて、今年度は、抗がん剤であるドキソルビシン、スニチニブ、およびエルロチニブの慢性(亜急性)作用を調べた。ドキソルビシンおよびスニチニブについては、3日間投与に比べて8日間投与により、心筋収縮抑制作用が進展することを見出し、国内外の学会にて発表した。学生優秀発表賞の対象となった。また、これまでの報告通り、エルロチニブ投与群では、心筋収縮に関するパラメーターに大きな変化は見られなかった。安定したデータを取得するためには、インキュベーターから細胞を顕微鏡上に置くまでの間の温度低下を避けることが肝要であり、保温器等を使用して対応することで改善した。 ドキソルビシンによる心抑制を回復する薬剤として、鉄キレートによるフリーラジカル抑制をもたらすデクスラゾキサンおよび論文報告があるインシュリンを試験したところ、ドキソルビシンの作用発現が遅延することを見いだした。以上の結果より、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて亜急性毒性を評価する実験系の構築に成功したといえる。今後は、本評価系を用いて、心保護薬の探索などに期待がかかるところであるが、細胞の価格の高騰などHTSとして行うのは困難であるなど課題も残す。 さらに、心房心室の識別については、細胞株ごとに結果のばらつきがみられ、ヒトiPS細胞由来心筋細胞としての見解を得るために、マウス心房筋心室筋との結果の比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の基礎となる「長時間測定のための実験環境の整備」については、昨年度に、10日間の安定測定に成功しており、既に達成されている。今年度は、ピペッティング手技の個人差が影響することを見いだしたことから、他の予算で進行中である自動分注機開発の必要性が示唆された。特に、多くの種類の薬理作用を解析する際のピペッティングの労力は甚大であり、何かしらの改善策を要することが明らかとなった。また、毎日、人力で培地交換を行うプロトコルであるため、長期休暇や入試による登校規制などを避けて実験せざるをえず、当初の予定よりも行える実験の回数が少なくなってしまった。その結果、データポイント数が足りないため、保護薬の全体的な効果については、いまだ結論が出ていない。 この進捗状況は、ほぼ当初の実験計画であるが、今後、薬理作用解析を主に行っていく過程で、自動文中システムの導入が必須であると言うことも明らかとなった。 また、心房心室の識別については、データの蓄積や論文検索による調査が進んだ結果、当初に選択したマーカーがベストではないかという結論に至りつつある。最終年度に向けて、さらに解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に行った実験の経験を踏まえ、今年度はより効率的にデータを取得することが出来る体制を整えた。これまで、学生2名を配置していたが、学業の関係上、常時1名しか主に実験を行うことができなかった。そこで、3名を配置することにより、常時2名が本実験を行う事が出来るようにする点が大きな変更点である。また、自動分注装置の開発に合わせたスループット性の向上も行う予定である。この点は、機器の開発状況におうところが大きいが、今のところ当初の予定よりも開発が進んでいるので、スムーズに計画の実行を行えると考えられる。 心房心筋マーカーを選定する根拠となる基礎データについては、様々な阻害剤を試験しているところである。重金属イオンによるイオンチャネル阻害から標的を絞ったところ、あるイオンチャネル分子が心房心室の機能特性の差に重要であるという予試験結果を得た。そこで、そのイオンチャネルの特異的阻害剤を入手し、今年度に試験することを予定している。この実験により、機能的に識別するマーカーと形態的に識別するマーカーの2種類を見いだすことが出来ると期待出来る。
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