研究課題
疫学的研究から、脳におけるDHAやEPAのような多価不飽和脂肪酸(poly unsaturated fatty acid, PUFA)の減少が、うつ・統合失調症・記憶障害などの精神神経疾患の一因または悪化要因であることが確実視されている。また細胞レベルではPUFAは神経細胞(特にシナプス)で重要な機能をもつことが判っている。よって、脳内PUFA濃度を上昇させることができれば、精神神経疾患を改善できる可能性が高い。しかしPUFAの経口摂取が脳に与える効果は非常に低く、PUFA単独投与はヒトの精神疾患や認知障害を有意には改善しない。さらに、PUFAは循環器系等にも良い効果があるため、神経細胞のPUFA濃度が重要なのか、または二次的な効果なのか、区別が困難である。脳におけるPUFAの重要性解明には、脳特異的にPUFA濃度を変動させる手法が必要である。我々は脳の構造形成と機能発現におけるリーリンという巨大分泌タンパク質について研究してきた。近年、リーリンが統合失調症や記憶障害などの「シナプス病態」の発症に関与することが確実視されている。リーリンの受容体は血清リポタンパク質と同一である。我々は「リーリンも標的細胞の脂質組成にも影響するかもしれない」と考え、リーリン欠損マウス胎児脳の脂質組成を網羅的に解析した。その結果、リーリン欠損マウスの脳では膜リン脂質中のPUFA含有量が低下し、PUFA不足を補うために補償的に合成されるミード酸(C20:3, n-9)量が増加していた。すなわち、リーリンは神経細胞のPUFA量を上昇させることが示唆された。本研究ではこの知見を発展させ、培養神経細胞を用いてリーリンが神経細胞の脂質組成に与える影響を検討した。その前段階として、最低限の脂質存在化でマウス海馬神経細胞を培養する系を確立し、リーリンや各種脂質添加時における神経細胞の形態や生存率を解析した。
2: おおむね順調に進展している
最低限の脂質存在化でマウス海馬神経細胞を培養する系を確立した。また、成体脳におけるリーリン機能上昇による脂質環境改善効果を検討するため、新たに非切断型リーリンノックインマウス(分解酵素による不活化を受けないリーリンを発現する)を作製した。
脳スライスを用いて質量分析イメージングにより特定脂質の存在分布を検討する。また、各種のリーリン遺伝子改変マウス脳を用いた脂質解析を行う。
参加を予定していた学会に、大学の所用で参加できなくなったため、旅費を予定通り執行することができなかった。
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J Neurosci.
巻: 37 ページ: 3181-3191
10.1523/JNEUROSCI.3632-16.2017