膵臓がんは診断が遅れ外科的治療を行うことができないケースが多く、抗がん剤の治療効果が十分に得られないため生存率の低い難治性がんの一つである。したがって、より効果的に抗がん剤を膵臓がん組織へデリバリーすることが重要である。これまでの検討において、マイクロバブルに超音波を照射したとき生じる膨張や収縮などの物理的作用を利用したがん組織への薬物デリバリーを検討してきた。しかし、本方法ではマイクロバブルと薬物が異なる体内動態を示し、マイクロバブルの振動に伴う物理的作用により血管透過性が亢進している場所に薬物が存在しないなどの問題が生じていた。そこで本研究では、大量の薬物をマイクロバブルと共に存在させる方法の開発を行い、がん細胞への新規抗がん剤デリバリー技術の構築を図った。 昨年度までに調製方法を確認したドキソルビシン内封リポソーム搭載マイクロバブル(D-Lipo-MB)と超音波の併用による膵臓がん細胞の増殖抑制効果を検討した。その結果、膵臓がん細胞のPAN02においてD-Lipo-MBと超音波を併用すると、無処理やD-Lipo-MBのみの細胞と比較して、効果的な増殖抑制効果が認められた。次に、このD-Lipo-MBと超音波照射による増殖抑制効果が細胞内へのドキソルビシンデリバリーを反映したものであることを確認するため、デリバリー操作後に膵臓がん細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結果、D-Lipo単独やD-Lipo-MB 単独作用群に比べて、D-Lipo-MBと超音波照射の併用群で大量のドキソルビシン由来蛍光が細胞内で観察された。このことから、D-Lipo-MBと超音波照射の併用ががん細胞への効果的なデリバリー法であることが示唆された。
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