近年、既存の薬剤に対して抵抗性を示す「癌幹細胞」が存在し、 薬剤による治療後も数パーセントの癌幹細胞が残存して癌が再発・転移することが明らかになってきた。トリプルネガティブ型乳癌は、エストロゲン受容体などが陰性で有用な分子標的治療薬がなく悪性度が高い癌である。トリプルネガティブ型乳癌に多くの乳癌幹細胞が含まれることが明らかになってきているため、癌幹細胞を標的とした新たな治療薬の開発が期待される。そこで、トリプルネガティブ型乳癌細胞株から調製した乳癌幹細胞のモデル細胞を用いて、癌幹細胞に選択的に発現している脂質のスクリーニングを行った。乳癌幹細胞は、MDA-MB-231細胞株から機能的なマーカーであるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の陽性細胞をフローサイトメーターにより癌幹細胞画分を調整して、実験に使用した。ALDH陽性細胞の増殖を誘導し、ALDH陽性細胞において選択的に発現している脂質受容体を探索したところ、リゾホスファチジン酸(LPA)を見出した。次に、LPA刺激によって発現が亢進する遺伝子を次世代シークエンスによって解析して、液性因子のスクリーニングを行った結果、癌幹細胞の増殖に関与する液性因子を見出した。液性因子の阻害剤を添加することにより乳癌幹細胞の増殖が抑制されたことから、有用な創薬標的である可能性が示唆された。さらに、LC/MSにより網羅的な解析を進めた結果、ALDH陽性細胞に高発現している脂質を見出した。今後、脂質受容体や脂質合成酵素などに対する阻害剤を設計して、創薬基盤の構築を目指す。
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