申請者らはこれまで、細胞膜透過能と目的分子との特異的結合能を持たない蛍光ナノ粒子(量子ドット)に独自の工夫を施すことによって、細胞内の任意のタンパク質を標識して一分子挙動計測を可能とする実験系を複数構築し、細胞機能解析に利用してきた。本研究では、これらの手法を応用することによって、量子ドットを核として複数・異種のタンパク質を集積させた「人工複合体」を細胞内に構築できるナノ材料を創生し、これを用いた細胞機能制御の可能性を探索することを目的とした。 本年度は昨年度に引き続き、細胞内の異なる部位に局在し機能することが知られる複数の異なるタンパク質をそれぞれHaloTag融合タンパク質あるいはSNAPtag融合タンパク質として発現させ、ここにHaloTagタンパク質あるいはSNAPtagタンパク質を特異的に認識する低分子リガンドを異なる混合比にて結合させた量子ドットを導入した。そして、単一種のHaloTag融合タンパク質あるいはSNAPtag融合タンパク質を発現させた場合と比較しながら、これら量子ドットの細胞内挙動を一分子ナノ計測し、その差異を調べた。その結果、複数・異種のタンパク質が同一量子ドット上に存在することによってわずかに挙動の差異が観察された例も存在したものの、多くの場合には顕著な局在・挙動変化を誘導することは困難であった。ある特定の条件下では上記目的の達成は可能であると考えられるものの、幅広い分子群を対象とする普遍的な方法論としては解決すべき点が多く存在することを示唆する。
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