末梢神経(交感神経)培養細胞の軸索輸送をモデル系として、揺らぎの定理の実験的検証を行った。これまでの実験結果と同様、揺動散逸定理からの大きな逸脱が示され、本研究計画の前提が確認された。さらに、同様の計測を、ゼブラフィッシュ皮膚の黒色素細胞でのメラニン顆粒の運動について行った。その結果、マウス交感神経軸索輸送の系で揺らぎの定理から推定された有効温度に比べて、ゼブラフィッシュ黒色素細胞の有効温度は低く、細胞の種類・状態によって有効温度が異なる可能性が示唆された。この結果は、本研究計画の重要性を支持するものである。 また、細胞質内でのタンパク質一分子の拡散動態を計測する手法として確立している蛍光相関分光法について再検討を行った。既存の共焦点顕微鏡を利用した類似手法として、ラスター画像相関分光法RICSが知られているが、ラスター画像相関分光法による結果と蛍光相関分光法の結果が定量的に一致しないことが問題となってきた。今回、共振ガルバノメータを用いた高速走査とフォトンカウンティング検出器を組合せ、ウェーブレット変換など非線形ノイズ除去処理を行うことで、蛍光相関分光法と定量的に一致する計測結果が得られることを示し、細胞質内でのタンパク質拡散動態の計測を同一細胞内の多点で同時に計測することが可能となった。さらにこの手法を発展させ、通常のガルバノメータを用いた(共振ガルバノメータに比べれば遅い)走査での多点間相関を解析し、拡散成分に隠れた流れ成分を抽出するFlowFCS法を開発し、神経細胞での軸索輸送の解析に応用することに成功した。 これと平行して、単粒子追跡法による拡散動態解析のための新規手法の開発も進んでおり、蛍光一分子計測の高速化と3次元計測への応用に加えて散乱光を用いた高速3次元計測のための顕微鏡を構築した。
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